俺だけいつも枠の外
「四人でデート?」
友が「ああ」と頷く。
「俺と友彼のデートに、攻めがついてきたがるだろう? ならいっそ、同じところに行って、お前に攻めを引きつけていてもらおうと思ってな」
「は、はあ。わ、わかった」
「……頼むぞ」
できるかなあって気持ちが顔に出ちゃってたみたい。友に不安げに念を押された。つよい目に、慌てて頷く。
「わかった。で、でもさ、別のとこじゃだめ?」
「駄目だ! それだと尾行されたとき、わかりづらい」
腕組みしながら、友は首を振る。さらさらの髪の毛がぱしぱし揺れて白い頬にぶつかってる。大きな目を厳しくした。
「お前たちには、前科があるからな」
「ご、ごめんね……」
こないだの友のデートの尾行、結局バレたんだよね……。本当にごめん。
「本当に頼むぞ」
「う、うん。わかった」
「いいか。絶対に、攻めにほだされないでくれよ」
振り返っては念を押して、友は去っていった。俺はその背を見送り、俯いてた。ちょっとなんかこう、切ない気持ちがふわっと、こみ上げてきて。
「まあ、いいか!」
俺は気を取り直した。攻めとデートできるわけだもんね。四人でデートっていうのも、楽しいじゃん。なんたって俺と攻め、初めてのデートだし!
それに、攻めだって。
「こないだ、俺のこと心配してくれたもんね」
攻めの真っ赤な顔を思い出して、ほわっと胸があったかくなる。うん。
大丈夫! 何とかなるよ! なる!
俺は拳を握った。
そして、当日。
「友! こっちのアトラクションに行こう」
「友! 飲み物飲むか?」
「うるさい! どっかにいけ!」
ならなかった〜! 俺は頭を抱えていた。いや、わかってたけども……ちょっと夢を見ました。
ど、どうしよ〜。朝からずっとふたりとも、この調子なんだよね。攻めは来た時から友にかまってて、友はそれを怒って跳ね除けるの繰り返しでね……。二人を挟んで、向かい側にいる友彼さんと目が合う。たがいに苦笑。友彼さんが止めると、火に油だから、もう黙ってるんだ。
「せ、攻め〜。やめよ?」
俺は攻めの腕を引き寄せる。何気なく、やわらかく……。
「うるせえ」
攻めは、腕をぶんと振る。ちょっ……俺は地面にべしゃりと転ぶ。その間も、友と攻めはずっと言い合ってる。おーい……。遠い遠い。背中遠い。
や、やばい。今回はまじで駄目かも。二人の勢いが強くって、全然敵わない。攻めが友の手を取る。
「友――」
「いい加減にしろっ!」
友の叫びが、攻めの言葉に被さった。攻めの手を振り払って、大きな目が激しく攻めを睨んでる。
「別行動だといってるだろう! ついてくるな!」
「俺はこいつを認めてない!」
攻めは負けじと友彼さんを指して叫ぶ。友が一瞬身をすくめた。けど、睨み返す。
「友だって、こいつとのことが不安だから俺を呼んだんだろ!?」
攻めの言葉に、友の白い肌が真っ赤になった。
「妄想もたいがいにしろ! いい迷惑だ!」
「なっ――」
「攻め!」
俺は攻めに抱きついてた。俺は、攻めを見上げる。攻めの顔は、怒ってて、でも傷ついたみたいにどっか呆然としてた。
「や、やめよ。ね」
一生懸命、訴えかける。攻めは、「うるさい!」と俺を押しのけた。うう、やっぱり駄目か……。俺は目を閉じて、払いのけられた手をぎゅっとしてた。
◇
「しっかりしてくれ、受け……!」
トイレで二人になって、俺は友に叱られてた。
「全然ひきつけられてないじゃないか。頼むから、攻めを甘やかさないでくれ」
ぐさっと刺さる。けど、友の目は心底困ってた。
「ご、ごめん。でも……」
「頼む」
頭を下げられた。
「つけるお前たちはデートになっても、つけられる俺たちは台無しなんだ」
俺は言葉に詰まった。そ、それは俺も〜……でも、だから、そのぶん何も言えない。
「攻めが好きなのはわかるが、俺とも友達だろう。俺の言うことも聞いてくれ」
友の綺麗な目が、涙を浮かべ揺らめいてた。魔法の泉みたいで、胸が詰まった。俺はうなだれる。
「今度こそ別行動するから、攻めを引きつけてくれ。頼む、真剣にやってくれ」
友の言葉を聞きながら、胸がずんと重くなってた。
◇
「友彼! 行くぞ」
合流するなり、友は友彼さんの腕を掴んで、走っていった。攻めは、目を見開いて、
「待て!」
と追いかけようとする。友は俺に、一瞬視線を投げた。俺は、攻めに飛びついた。ぎゅっと服をつかんだ。ぶんぶん振られても、必死にしがみつく。
「離せ!」
「やだ!」
かなり攻めの本気を感じて痛い。けど、ここでちゃんとやんなきゃ。
やがて、友たちが逃げきったのか、攻めが舌打ちした。
「てめえ、ふざけんな!」
すごく怒った声で、攻めは俺の胸元を掴んだ。俺は目を閉じて叫んだ。
「殴っていいから!」
俺は目を開いて、じっと見上げる。めっちゃ怖い。けど、ここで引いちゃ駄目だ。
「あとで殴っていいから……! 俺の話、聞いて」
攻めの肩が下がる。ざあって喧騒が遠くなる。攻めの顔は厳しいけど、聞いてくれようとしてるのがわかった。
「攻め。友のこと、信じてあげよ?」
俺は切り出す。攻めは目を眇めた。
「攻めが、心配してるのわかってるよ。友が大切なんだよね。なら、それをゆっくり友と話し合おうよ」
一生懸命、言葉をつむぐ。うまく形になるかは別だけど、言いたいことは決まってた。ちゃんと、俺が言わなきゃ。友の友だちとして、攻めの……恋人として。
「攻めはただ、友に幸せになってほしいんだよね。その気持ちはわかるよ。友だってきっと、わかってるよ」
今は、喧嘩になっちゃってても、きっと。
攻めは何も言わなかった。俺も、言いたいことは言った。沈黙が、俺と攻めの間を満たしてる。
「それだけ。な、殴っていいよ」
ぎゅっと目をつむった。正直言うと、普通に殴られたくない。めっちゃやだ、怖い。けど、それくらいの覚悟で言った。だって攻めにとって、友は大切なひとだから。
攻めの手が、俺のほっぺたに触れた。身がすくむ。こういうとき、歯って食いしばる? やば、体の表面、冷たい――。
額に、なにかやわらかいものがふれた。
目を開くと、攻めの顔が近くにあった。
「へ」
攻めの目が、じっと俺を見下ろしてた。ゆっくり、離れてく。
「わかったよ」
ふいと目をそらされる。うなじに手をやって、憮然としてるけど、怒ってるっていうかバツが悪そう。
「今度おごれよ」
俺は口を開いたまま、ぼかんとしてた。額に手をやる。
「攻め」
「勘違いすんな。友のためだからな」
「うん。ありがと、攻め」
顔中熱を持ってた。涙がにじんでくる。攻めが、「泣いてんじゃねえ」と、俺の手を引いた。ぎゅっと握られて、息を呑む。
「コーヒーカップ、乗るんだろ」
「えっ」
「んだよ」
「うん、乗る……!」
一緒に乗ってくれるんだ。いつも、攻めと友が絶叫系乗ってる間に、ひとりでくるくる回してたのに、知ってくれてたんだ。
涙がじわっと浮かんできた。「んだよ」と怪訝に聞かれて、「んーん」と首を振る。
「ありがと、攻め。大好き」
ぎゅっと手を握り返した。離されるかと思ったけど、離れなかった。
「ふん」
見上げた攻めは、耳まで赤い。
「現金なやつ」
俺はひたすら、にこにこしてた。
うれしい。攻めが俺の言葉、聞いてくれた。ちゃんと届いた。あきらめないで、話してよかったな……。
これなら、うまくいくかも。俺は明るい気持ちで、攻めと歩いていた。
コーヒーカップに並ぼうとして、ふと、見慣れた影が見えた。
「友?」
友が、ひとりで、こっちに走ってくる。何も見えてないみたいに、必死に。
――泣いてる?
「攻め……!」
友が、攻めの胸に飛び込んだ。
《完》