俺だけいつも枠の外


「ふぁ……」

 ね、眠い〜。あれから結局、朝まで攻めと通話してた。

「おい、今寝てたか!?まじめに話聞け」
「攻め、もう四時だよ〜」

 ごめんね皆。心配かけたのに、さっそく不摂生するような罰当たりを……。心のなかで謝罪大会の通学路、俺は攻めの言葉をくり返してた。

「いいか! お前が友の目を覚ませ」
「えぇっ」
「友彼がいかにひどいやつだったか、言葉を尽くして友を説得しろ! いいな!」

 よくなーい。無理だよ攻め、無理無理。恋人のこと、悪く言われたくないよー。俺はこめかみを揉みながら、ふらふら歩く。足の下のアスファルトが硬い。太陽が超、眩しかった。

「受け!」
「おはよー、友」

 クラスに入ると、友がぱっと駆け寄ってきてくれた。

「もういいのか?」
「うん、心配かけてごめんね」

 へらっと笑う。友はホッとしたみたいに笑った。えへ、可愛いね。

「おい、友! 話は――」

 攻めが向こうからやってきた。わお、もう来てたんだ。徹夜をものともしないエネルギッシュな目、してる。友は肩をはねさせて、俺の腕に抱きついた。ん?

「受け、行こう」
「友!」
「うるさい!」

 友が攻めに叫び返す。

「オメガ同士の話だ。ついてきたら訴えるぞ!」

 きっと攻めを睨んで、俺の腕を引っぱって歩き出す。お、おろ……。三日ぶりだけど、なんか二人のテンションが激しい気がする。頭がきーんってなる。
 友に引かれるままに教室を出ると、攻めに、「受け」と呼ばれて肩越しに振り返る。

「わかってるな」

 口の動きだけで伝えられて、俺は首を横にふった。
 む、無理ですて〜。攻めの般若みたいな顔に見送られ、俺は歩いてった。


「やっとひとごこちついた」

 校舎裏に着いて、友はふーとため息をついた。

「おつかれ、友」
「ありがとう。お前がいない間、本当に大変で……」

 腕組みしながら、うなだれてる。綺麗な顔は、あきらかに疲れてて、俺は眉を下げる。

「攻めから聞いたよ。友彼さんから指輪もらったって……」
「ああ。それで攻めのやつがもう、うるさくてうるさくてな」
「あー……」
「そんなことより、受けの心配をしろというのに」

 長く重く息をついた友に、俺は「あはは……」と笑う。

「ありがと友」
「友達として当然のことだ」

 友はふふ、と笑う。それから渋い顔をした。

「なんで攻めはああなんだろうな……」
「それは、友が心配なんだよー」

 俺は両手をぱたぱた振って、答える。この重い空気、変われの意図です。友は「いや!」と厳しい声で首をふった。不発。

「受けは攻めに甘すぎる。あいつはおかしい!」

 大きな綺麗な目がぎゅんって、つりあがった。目がめらめら燃えてる。友はうなる。

「なんなんだあいつは! 普通、体調不良の恋人の心配をするだろう!? 俺の指輪のことなんかじゃなく!」
「ゆ、指輪は大事なことだよぉ」
「いや! 指輪より受けの体調だ! それなのにあいつはちっとも……」

 握りこぶしを振って、憤慨している友をどうどうと宥める。う、嬉しいけど〜。なんかちと刺さる……。

「そ、そうだ! 指輪の話、詳しく聞かせてよ!」

 俺は明るく話を切りかえた。これ、実際気になってたんだよね。友も気を取り直してくれたみたい。「ああ」と表情がやわらかくなる。

「ありがとう」

 頬にふわって赤みが差した。そっと、左手を差し出して、見せてくれた。細くて綺麗な薬指に、銀色の指輪がはまってる。

「わ〜! 綺麗」
「これからも一緒にいてくださいって、はめてくれたんだ」
「すごい! よかったね」
「ああ」

 笑う友の顔はすごい幸せそう。指輪を見つめながら、続ける。

「ほら、俺たちは結婚するまで清い付き合いと決めてるだろう。それで不安にならないようにって」
「情熱的だねえ」
「まあ……それでな。親にも会ってほしいって頼んだんだ。友彼、会うって約束してくれた」
「えー! すごいじゃん!」
「ああ。父さんと母さんの休みがとれるのが待ち遠しい」

 そう言って笑う友は、どんなお花より綺麗だった。俺は思わず見とれちゃった。それで、自然に笑顔になる。

「いいなあ。おめでとう!」
「うん」

 友は頷く。それから一転、すごくまじめな顔になって、じっと距離を詰めてきた。近さにびっくりする。人形みたいにきれいな顔が、ささやいた。

「さしあたって、お前に頼みがあるんだ」
「なに?」
「攻めにはこのこと、絶対に言わないでくれ」
「へ?」
「頼む。そしてできたら当日、二人でどこかに出かけていてほしい」

 絶対に邪魔されたくないんだ。
 そう言う友は、今もあたりを探るみたいに警戒して、目線を動かしてた。

「は、はあ。でも」
「頼む!」

 目の前で手を合わせられる。勢い強くて、ぱしんとあたりに音が響いた。

「最近、あいつは本当に本当に、過保護が過ぎて……」
「い、いいけど。でも」

 すっごい渋い顔で言われて、俺は頷く。そりゃそうか。でも……俺はちょっと躊躇う。

「友。この機会に、攻めとちゃんと話し合ってみたら……?」

 攻めと友は、幼馴染で、親友だし。うかがうと、友は首を振る。

「駄目だ」

 バッサリ。

「攻めは、てこでも動かないところがあるから」
「そ、そっか。わかった……」
「ありがとう」

 友は、ホッと息をついた。戻ろう、と促される。俺たちは、廊下を行く。友のきれいな後ろ頭を見ながら、俺はうーんと思案する。
 攻めを足止めかあ。お、俺にできるの……? いや、やるしかないですけども〜……。

「攻め〜」

 自分の席に座って、スマホを眺めてる攻めに声をかけた。長いまつ毛が、青い影を落としてる。

「今度の休みなんだけど……」
「当然、友と遊ぶが」

 わはは……皆に合わせて俺も笑っちゃった。相変わらずだね……。
 こんな状態で引き止めるなんて、できるの〜俺。
 それに。俺は、攻めの横顔を見つめる。
 本当に、言わなくていいのかなあ。
 いや、友の不安はわかるよ。攻めは友のこととなると行き過ぎるし、全然話聞かないもんね。
 でも。攻めが友を心配してるのも、本当なんだよね。

「もういやだ! あんなやつ大嫌いだ……!」

 友は、友彼さんと付き合う前、すごい悩んでたんだ。友彼さんが年上で、なんかわかりにくい人だったから。それで、俺たちも大丈夫かなって。

「友、もうやめろそんな奴! お前にはもっといい奴がいる!」

 友彼さんは付き合ったらすごく優しい人でね。けど攻めは、あのとき辛そうに泣いてた友のことが、頭からずっと離れないのかも。まあ、わからんではないよね。俺だって友彼さんに、「友のことがすごく好きだ。攻め往ね」って、相談されてなかったら、今も「友、大丈夫なのかなあ」って思ってたと思うし。
 なにより、友と攻めって本当に仲良しで、水魚の交わりじゃん。一度腰を据えて話し合ったほうが、いいと思うんだけど。

「友! 覚悟は決まったか? 指輪を――」
「うるさい! 俺と友彼のことに口出しするな!」

 うーん。やっぱ、厳しいかなあ……。
 言い合う二人を前に、俺は首をうんうん揺らしていた。と、とりあえず止めますか。

「せ、攻め。やめよ? ねっ」
「うるせえ」

 攻めの背中にとりついたら、ぶんと振り払われた。あう。襟をつかまれて、すごまれる。

「てめえ。話が違うだろうが」
「で、でも……やっぱりよくないよ」

 攻めは舌打ちして、俺を放り投げた。そうして、去ってった友の後を追う。俺は横ざまに倒れてた。痛い。寝不足の体に痛い。
 うーーーん。

「受け、頼む! 俺の味方をしてくれ」

 友に、あとでもう一度頼まれた。すっこい必死だった。

「いいか。絶対に攻めにほだされないでくれ。あいつは、本当に聞く耳持たないんだ」
「そ、そうだけど……」

 頷いてたら、攻めが向こうからやってきた。

「友!」
「うるさい! いちいち俺に構うな、鬱陶しい!」
「友……」

 攻めがショックを受けた顔で、立ちつくす。友はぴゅんと歩いていった。おお……小さくなる背を見送る。

「せ、攻め。ドンマイ」
「うるせえ」

 おろおろ、のばした手を、攻めは払った。険しい横顔は、怒ってる……っていうか傷ついてるみたい。

「俺に構うんじゃねえ」
「攻め……」

 わかってる。俺が話すのはルール違反。だから絶対に、言えない。でも……。
 なにかきっかけがあれば、一気な気もするんだけどな。俺はうーんと空を見上げた。

 友に、友彼さん、俺と攻めの四人で遊園地に行こうって誘われたのは、それからすぐだった。


《完》

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