「オメガの騎士など認めない」と言われましたが
ジョンとサムを担いで、ノアは山道を駆けていた。
「速い速い!」
「とばしてるな〜」
周囲がどっと笑う。今は、足腰を鍛える鍛錬中なのだ。ノアは、せっせと打ち込む。だが、まだ気が晴れなかった。
「まだ足りない! もう一人か二人乗ってくれ!」
「よしきた!」
仲間が、上に乗ろうとしたときだ。
「なにしてんの?」
「うわあっ!」
声が降ってきたと同時に、ノアの上から重みが消えた。
「なっ……」
カイルが、ジョンとサムを掴み上げていた。
「無遠慮なことはやめてよ」
「も、もうしわけありません!」
わたわたと二人は足をばたつかせる。ノアは、カイルを睨んだ。
「俺が頼んだんだ。言いがかりはよしてくれ」
「体を痛めちゃいます。もっと大事にして」
カイルが二人を離す。二人はぴゃっと遠くにかけていった。ノアは、苦い気持ちになる。たしかに、むちゃをした自覚はあるからだ。
「……大体、なんでここに」
「配置換えしてもらったんです」
「は?」
「ノアさんから、返事も聞きたいし」
じっと見つめられ、ノアは唖然とした。開いた口がふさがらないとはこのことか。
「もう、答えたはずだが」
「納得するわけないでしょ。うんって言ってもらえるまで、諦めませんから」
ノアは、真っ赤になった。
「ふざけるな!」
振りかぶった手を止められる。あまりの余裕さに、歯を食いしばった。
「迷惑だって、言ったはずだ! お前と舞踏会なんて出ない!」
「なら、誰と出るんですか」
カイルの手が強くなった。ぎゅっと締め付けられて、目を見開く。強い目が、じっとノアを覗き込んできた。
「俺以外の、誰と出るんですか」
「し、知らん! そんなのお前に関係ない」
「どうして」
「どうしてって……」
ノアは、言葉に詰まる。
お、俺がおかしいのか……?
カイルがあまりにも平静だから、動揺する自分が妙な気さえしてきた。じっと見つめ合う。風に砂がさっと舞った。
「俺とノアさんの仲でしょう」
カイルの言葉に、ノアは目を見開いた。蹴りを繰り出す。悔しさに、体が震える。あまりに許せない言葉だった。
「ふざけるな……! よくもぬけぬけと……」
「怒ってるならごめんなさい。でも、俺だってノアさんのこと、忘れたことなかったよ」
「嘘だ!」
カイルの胸を叩いた。びくともせず、受け止められる。カイルが、引き寄せてきた。
「本当です」
カイルの胸に、頬が当たっていた。いつのまに、こんなに差がついたろう。心臓の音が、肌に響く。
「お願いだから、俺と一緒に出て」
ぎゅっと頭を抱かれた。
「ノアさんを、守りたいんだ」
かっと、逆上せる。
「離せ!」
「いやです」
胸を押し返すけど、きかなかった。もみ合うけど、ちっとも動けなかった。ずっと鍛えてきたのに。
「ふざけるな……」
力なく、うなだれる。
「お前にだけは守られたくない」
「ノアさん、」
「絶対にいやだ」
カイルの手が緩んだ。その隙に、ノアは腕を抜けて駆け出した。
悲しくて仕方なかった。守るだなんて、今は絶対に聞きたくない。ただのオメガへの気遣いなんて、いらない。
「もう、俺はお前の特別でもないのか」
ノアは悲しみを堪え、地を蹴った。