「オメガの騎士など認めない」と言われましたが
鍛錬場にて、ノアは剣を振るっていた。
「鬼気迫るな、ノア」
「ジョン」
槍を携え、学友たちが笑った。ノアは少し気持ちを和らげる。
「すまない。つい没頭していた」
「いーや。後輩たちに示しがついていいってもんさ」
気の良い言葉がありがたい。しかし、サムがぐっと心配そうに眉を寄せた。
「でも、大丈夫か?」
「ああ。聞いたぞ」
こそこそと囁かれて、ノアは頷いた。
「耳が早いな」
「というか、殿下たちがじきじきに仰ってたから」
「そうか……」
皆、苦い顔をして黙り込んだ。ノアのために何かいいたいが、言えない。そんな様子だ。
ノアは笑って、皆の肩を叩いた。
「心配するな。殿下の不安はごもっともだ。立派につとめて忠誠を示すよ」
「ノア……」
実際に、フレデリックやアンブローズのように懸念する貴族は少なくないはずだ。こうして軍の皆には、受け入れてもらっているが……。
ここで半端をしてはいけない。この国の忠臣として、立派な前例になるのだ。ノアは拳を固く握った。
「それで、お前たちに頼みがあるんだが……」
その時、けたたましい悲鳴がのぼった。
「何だ!?」
混乱が起きる。しゅんしゅんと音を立てて、騎士たちの中を影が暴れまわっている。
「魔生生物だ!」
ノアは剣を構えた。
「囲め!」
周囲も臨戦態勢となり、構える。
魔生生物が、――五体。何でこんなところに。
「王太子殿下のお気に入りだ、傷つけてはならん! 生け捕りにせよ」
上官が怒鳴った。ジョンは「くそっ」と唸った。
「そんなに大事なペットなら、檻から逃がすなってんだ」
「声が高いぞ!」
上官の叱責も止む。魔生生物たちが、散り散りに襲いかかってきた。
全員、数人がかりで一体に向かう。とり囲むが、傷つけてはならない制約が、皆の動きを鈍くしていた。
「くっ!」
「サム!」
サムが腕を押さえる。
魔生生物が、囲いから飛び出した。
ノアは駆け出して、剣から魔力を放出する。大きな魔力の網をつくると、ひとふりした。
「ノア!」
やわらかな結界に、一体ずつ絡められていく。四体捕まえたところで、剣を地面に突き立てた。ジョンとサムがそれを受け、結界を貼り続ける。
ノアは、一番大きな魔生生物に向かう。
おおきな獣の姿をしているそれに、素手で構える。
襲いかかってきたところを、受け流し、横に倒した。
足を取り、抑え込む。
「枷を!」
ノアが叫んだ。上官が枷を投げた。他の魔生生物たちも、檻に入れられていく。
周囲はわっと沸いた。
「さすがノア!」
「うまくいってよかった」
枷を付けながら、ノアは笑った。ジョンとサムが、大きな檻を持って、駆け寄ろうとしたときだ。
上から、もう一体襲ってきた。翼と鋭い爪を持った怪鳥型の魔生生物だ。ノアに向けて急降下している。
「ノア!」
皆が声を上げる。ノアは息をつめた。獣を抑えるのに手一杯だ。魔法なら撃てるが……傷つけるわけにはいかない。
とにかくはやく枷を。手を早めたときだ。
怪鳥が、びしりと固まった。
けたたましい声をあげて鳴くと、進行方向を変えた。
その行き先を見て、ノアは目を見開いた。
大柄の青年が、へりくだる怪鳥を鎮めていた。
皆、その光景に唖然とする。「まじか」とサムが呟いた。
青年は、ゆったりとこちらを見る。色素の薄い長髪が、さらりと揺れた。
「こんにちは、ノアさん」
「カイル……」
にっこりと笑まれ、ノアは、苦い声で応えた。