「オメガの騎士など認めない」と言われましたが


「なっ……!」

 周囲は息をのむ。
 ノアの体は、光りに包まれ――血の赤を包みとっていった。カイルの体もまた、同じ光に輝く。

「ノアさん――」

 ノアは目を閉じていた。蒼の光が赤を巻き上げ、さあっと上空に、ひとつの玉とする。

「ああ……」

 誰かの嘆息が、大きなどよめきに変わる。
 ノアは、先までのドロドロの姿から一転――美しい姫として、そこに立っていたのだ。

「ノアさん」
「騎士たるもの、得意分野で戦うものだ」

 土砂をなんとかした時に、汚れないように張った結界だ。こんなこともあろうかと……ずっと身を守っていた。
 カイルにもまた、抱きしめられる前に、結界を張った。それでも。

「お前は知らなかった。なのに抱きしめてくれてありがとう」

 そう言って、ノアはにこっと笑った。

「なんと……」
「光の中から真の姿を現すとは」

 周囲から、歓声があがる。

「美しい……!」
「なんと凛々しい花か!」

 カイルは、誇らしげにノアを見つめた。
 ノアは笑って、そっとその手から、鳥を放つ。鳥は飛び立ち、優雅に旋回し――アンブローズのもとへ降り立った。
 地面を転がった赤の玉が、フレデリックの足元で止まった。
 アンブローズは、鳥を払った。フレデリックは、目を眇め、それを足で払った。玉は破れ、ざあ、と会場に赤い血が広がる。ざっと周囲が後ろにひいた。

「素晴らしい!」

 朗々とした声が響いた。
 皆がかえりみて――礼を取る。

「陛下」
「ノア・ブラッド卿。そなたがこんなにも美しいとは思わなかったぞ」
「はっ」
「先の結界術も見事。そなたの修練がうかがえる」
「ありがたき幸せにございます」

 ジョンとサムたち――仲間たちの歓声が聞こえる。

「しかし父上……! このようなことができるなら、わざわざあんなはしたなき姿で出ずとも良いはずです!」
「そうじゃ! 演出ではないか……!」

 フレデリックとアンブローズが、抗議する。その声には、いつもの張りがなかった。
 それにおいては、ノアはすっと頭を下げた。

「お騒がせしたこと、お許しください。大恩ある王家の舞踏会に、伴侶からのドレスを汚したものが許せなかったのです」

 まあ、出方を窺いたかったのだが……ノアは包んだ。陛下に頭を下げると、陛下がにっこりと笑った。

「よいよい。男冥利に尽きるな、カイルよ」
「ええ」

 カイルが笑う。その笑顔には、朱がさしていた。

「父上……!」
「フレデリック、アンブローズ。そなたらの負けじゃ」

 低く、陛下は囁いた。フレデリックの美しい容貌は、さっと青褪めた。その重ささえなかったように、陛下は、ろうろうと声をあげる。

「では、始めようではないか」

 陛下が手を上げ、音楽が響き出した。
 ノアとカイルは手を取り合い、歩みだした。
 皆が、音楽に身を任せ、踊りだす中、フレデリックとアンブローズは、そこから動かなかった。握られた拳が、白く震えていた。

「ノアさん!」

 カイルが、ノアの手を引き、踊る。ノアは笑って、くるりと回った。蒼の花がまうように、ドレスが翻った。

「カイル……!」

 二人の視線が、重なる。
 二人は、見つめ合い、笑って、ステップを踏み続けた。


22/23ページ
スキ