「オメガの騎士など認めない」と言われましたが
「そのような姿で会場には入れられません」
衛兵たちに引き止められる。
「怪鳥にのってきたかと思えば……いかに公爵家とあっても、許しがたいです」
ノアは、胸を張って応える。
「奇抜な到着に、驚かせたことはお詫びしましょう。なにぶん馬車が壊れてしまいまして。しかし、この格好については、ここで起きた事故にございます」
ノアは腕を開いて、示してみせた。手には、件の鳥が握られていた。
「魔生生物の血を、この鳥が降らしました」
鳥がもがくのを、ノアは抑えていた。
「誰の使いか調べればわかりましょう。私のドレスは、カイル・ロードリック卿が贈ってくださったもの。両家の名を落とそうとした輩の仕業に違いありませぬ」
ノアはきっと衛兵たちを見やった。
「ここで不貞の輩に屈するわけには参りませぬ。どうか陛下や王家の方々には、われらの忠誠を信じていただきたいのです」
衛兵たちは、ノアに圧された。後ろに後じさり、確認を取りに行こうとした。
「確認なんていらないでしょう。陛下はわれらこそが忠臣であるとご存じのはず」
ノアが制する。あ、あ、と衛兵はたじろぐ。
「それとも、何か他の意図があるの?」
カイルが目を眇めた。衛兵たちは昏倒した。ノアとカイルは、手を取りあい、会場内に入った。
会場内は、異変にざわついていた。中心に、もっとも美しく咲き誇るアンブローズが、ぱっとこちらを向いた。
「なんじゃ、騒々しい……」
しかし、カイルの姿を見て、ぱっと顔を明るくした。
「カイル! 待っていたぞ!」
笑って駆け寄ってきた。
しかし、臭気に顔をしかめる。
「なんじゃ、その格好は……! ノア、そなたか!」
アンブローズが、ノアを睨みつける。
「王家の舞踏会に、このような狼藉……! 騎士としても、オメガとしてもありえぬ!」
「まったくだ。花などやれようはずもない」
アンブローズの隣に、フレデリックが並んだ。優美な笑みを浮かべ、ノアを嗤った。
「お待ちください。ノア卿を陥れようとした不逞の輩に……」
「そうです!」
「我らの馬車も襲われ……!」
カイルの言葉に、リナリアとグレッグも続いた。あたりがざわつく。フレデリックは、「ふむ」と目を伏せた。
「それは災難であったな」
と痛ましげにじっと見つめる。
「だが、それと約束は別だ」
はっきりとフレデリックは告げた。アンブローズもまた、「そうじゃ」と続く。
「ここで、不運があったからと有耶無耶にはできぬ。この国の未来がかかっておるゆえ!」
「時の運も勝負のうちだ。ノア、お前のような不運のものが軍にいては、士気に関わる」
アンブローズは、フレデリックに身を寄せ合い笑う。
「そういうことじゃ。カイル! いつまでぼうっとしておる。そなたはわらわのパートナーであろう」
アンブローズは可憐に笑って手を差し出した。
「衣装は用意しておる。さあ、着替えて参れ」
そう言ってぴっとノアを指さした。
「ノア、わかったならば。そなたは帰るが良い。あらためて、剣を返す儀式をしようではないか」
遠くに「そんな……」とサムの声が聞こえた。
ノアは、黙っていた。
沈黙と緊張が、あたりに満ちていた。
「はやくせよ! 騎士としての最後の意地もないか?」
アンブローズの誇らしげな声が、凛と響いた。
その時だった。
ノアの体が、光り輝いた。