「オメガの騎士など認めない」と言われましたが
「待たせた――」
グレッグとカイルが戻ってきて、目を見開いた。
「ノアさん……!」
ノアは、目を閉じて、そこにただ、立っていた。隣には涙を流し、悲嘆に暮れるリナリア。
「ごめんなさい、ノア……! 私を庇って……」
「いえ、義姉上。私が迂闊でした」
ノアは、ドロドロの赤の液体まみれだった。魔生生物の血かもしれない。
あの時、鳥が持ってきた球体にたっぷりと満ちていた。臭気と、毒々しい赤色が、ノアを頭から染め上げていた。ドレスも肌も、台無しである。
「なんということだ」
グレッグが頭を抱えた。カイルは、スカーフを抜いて、ノアに寄った。
「カイル」
「ノアさん」
美しいスカーフが赤く染まる。カイルの手は必死だった。ノアはその手つきを見ていると、気持ちが落ち着いてきた。
「義姉上、兄上。どうかお先に行ってください」
「しかし……」
「お願いします」
ノアの言葉に、グレッグは、沈黙し――頷いた。
「行こう、リナリア」
そう言って、涙を流す妻を引き連れ、舞踏会場へと、向かった。
ノアはそれを見送る。カイルは、一生懸命に、ノアの肌をふいていた。美しい手まで、赤に染まる。
「カイル、いい」
「でも……」
「ありがとう」
ノアは顔をあげて笑った。その笑顔は、カイルの澄んだ瞳に映った瞬間、かすかにふるえた。
「すまない」
無念の気持ちで、カイルに謝る。
「お前が贈ってくれたドレスを、不意にした」
「そんなこと……どうでもいいです」
カイルはノアを引き寄せた。美しいカイルの衣装に染みる。ノアは避けようとしたが、カイルは首を振った。
「ずっと一緒です。そうでしょう」
「……カイル」
カイルの声は、必死だった。ノアは、笑った。泣きそうな伴侶の背を、ノアはそっとなだめてやる。もう、気にしなかった。
「愛してる」
カイルが息を呑んだ。
ノアは、ぱっと身を離した。
「騎士たるもの、これしきで退いたりしない。俺と一緒に、ついてきてくれ」
ノアは、カイルを見上げて、言ってのけた。カイルは、目を見開いていた。唇が、かすかに震えている。
カイルは、ノアの手を取ると、そっと口づけた。
「はい」
そう言って、二人は会場へと向かった。