「オメガの騎士など認めない」と言われましたが


「カイル、ここまでどうきたんだ?」
「なんてことなく、転移術です」

 カイルはいたずらっぽく笑った。転移術とは、他領でなかなか挑戦的な。

「俺の伴侶の領だから、許してください」
「べ、べつに、咎めていない。おかげで助かった」

 ノアは顔を染めた。手をつなぎながら、二人で駆ける。

「馬車まで使っていいですか?」
「だめだ、走れば済むんだし走ろう」

 転移術は疲れる。カイルの魔力が無尽蔵とはいえ、それは比喩だ。唇を尖らせると、カイルは「ノアさんは……」と笑った。

「何だ」
「好きっていいました」

 ノアは、赤面したが、「ふふ」と笑った。

「俺もお前が好きだ!」


 怪鳥たちのけたたましい声がする。魔生生物により、馬車が無茶苦茶になっていた。美しい細工だったろう馬車が、無惨に食われている。

「……やられた」

 カイルが死んだ目で呟いた。ノアは唖然としていた。見覚えがありすぎる。フレデリックのペットたちだ。

「土砂は撒き餌か……」
「あ、兄上と義姉上は……!」

 ノアは青ざめた。
 これほど無茶をしてくるなら、家紋の入ったブラッド家の馬車も狙われているはずだ。

「すまん、カイル! お前の馬車のことは後で話そう!」
「待って、俺も行く!」

 ノアは、カイルと先へ急いだ。

「兄上ー! 義姉上ーーっ!」

 見れば、グレッグが兵たちと共に戦っている。馬車が、ばきりと崩れた。

「リナリア……! くそっ、王家の馬鹿野郎ども……!」

 優美な兄らしくない怒りっぷりも、納得だ。ノアは、リナリアのもとへ急いだ。

「義姉上!」
「ああ、ノア……!」

 くずれた馬車の中、清楚な面差しを、青ざめさせて、リナリアは震えていた。

「ノア! 先に行きなさい!」
「そうですわ、ここは私たちに任せて……!」
「そんな、兄上と、義姉上をおいては行けません!」
「ノアさん、行こう」

 駆けてきたカイルが、ノアの体をすくった。魔生生物たちは、カイルのところにいた分も追いかけてきていた。

「カイル!」
「大丈夫」

 カイルはそれらを目で追う。

「えっ……!」

 びゅん、びゅんと生物たちは、通り過ぎていった。グレッグの馬車を襲っていたものたちも、びくりと震えると、彼らについていった。

「何だ……!?」

 しん、と澄んだ空だけが、あたりに残る。呆然とするなか、カイルだけが穏やかに笑っていた。

「――ね。行きましょう」

 そう言って、ノアを引き寄せた。
 怪鳥型の魔生生物が一羽戻ってきて、ばさりと降り立った。


「いやーーっ! 恐ろしいですわ……!」
「り、リナリア落ち着け……!」

 怪鳥に乗りながら、四人は王宮へと急いだ。前からカイル、ノア、リナリア、グレッグの順に座っている。リナリアの手が、痛いほどノアの腰に食い込んでいた。

「すごいな、これが怪鳥のスピードか……」

 ノアは感嘆する。
 魔生生物が戦に扱われるのが禁止になってよかった。ノアはカイルの背を、頼もしく思う。

「あと少しで降下します! 気合い入れてください」
「きゃーーーー!」
「義姉上、大丈夫です!」

 ぐんと、腹の底が浮くような感覚のなか、一気に地上へと、降下した。


「着いた……!」

 全員、地上に降り息をついた。
 眼の前に、王宮がそびえている。

「何事だ!」
「怪鳥を王宮につれてくるなど」

 衛兵たちの対応を、カイルとグレッグが引き受けた。
 リナリアはハンカチで涙を拭いながら、身だしなみを整えだした。

「さ、ノアも……」

 ノアは、リナリアに微笑み返した。そして、顔が固まる。
 不思議な液体の満ちた玉を持った鳥が、リナリアの後ろに飛んできていた。爪をぐっと立てる。

「義姉上……!」

 ノアは、リナリアを背に庇った。玉の弾ける音が、あたりに響いた――。
 

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