「オメガの騎士など認めない」と言われましたが


 さて、当日。

「まあ〜……! 坊ちゃま、なんと美しい……!」

 家の者たちの絶賛に、ノアは目を泳がせていた。
 うちの人間は、正直、身内びいきが過ぎないか? 気持ちは嬉しいのだが。
 ノアは、自分の姿を見下ろす。
 鮮やかな蒼と花色を基調にしたパフスリーブのドレスに身を包んでいた。ノアの体格をたおやかに見せ、かつ長身が映えるようにデザインされている。
 たしかに美しいドレスだし、いままでで一番、似合うような気もするが。
 とはいえ、話半分に受け取って、気合を入れ直そう。見た目で姫やオメガに劣る分、ダンスや心意気で頑張らねば。

「本当に。ノア、とても似合っていますわ」
「カイル殿がいかにお前を見ているかわかるな」

 リナリアとグレッグの言葉には、ノアも思わず赤面した。二人もまた、今日の日に合わせて正装をし、美しいパートナーの見本のようだった。

「頑張りなさい」
「幸運を祈っていますよ」
「父上、母上。行ってまいります」

 ノアが、一礼したときだった。

「だ、だ旦那様あ!」

 家令が転がり込むように、走ってきた。

「どうした」
「た、大変にございます!」
「道が……!」

 家令の慌てように、皆も顔色を変えた。さっと外に出る。

「なんてことだ」

 父がうめいた。
 なんと、屋敷の外には、大量の土砂が積もっていた。そびえ立つ壁のようだ。雪でも、こんなにすぐには積もらない。

「転移術か……」
「はい。領地から公道までの道、全てこうなっているようで……これでは、馬車が出せません!」
「そんな……!」

 リナリアがふっと、後ろに倒れこんだ。グレッグが抱き支える。

「これでは、カイル殿も来れないではないか……」
「そうでなくても、これだけの土砂を避けながら進むとなると……」
「王家めっ……ここまでするのか!」

 父が顔を真っ赤にして怒鳴った。兄も母も、苦悶に顔を歪める。
 ノアは、土砂の山を見上げた。ぐっと拳を握る。

「ご安心ください!」

 ノアは、胸をはり、背筋をしゃんと伸ばした。

「剣を!」

 凛と叫ぶ。
 素早く駆けた従僕から剣を受け取り、ノアは土砂の前に進みいでた。

「いけない、ノア!」
「泥まみれになってしまいます! ドレスが……」
「ご心配無く!」

 ノアはぐっと全身に気を込めた。小さな結界をはり、身を守る。土砂に剣を突き刺し、土砂の壁の上に登った。剣に魔力を灯らせ、ひゅんと土砂の果まで飛ばした。土砂にノアの魔力が宿り、青く光る。
 土砂から降りたノアが、剣をぐっと天に掲げる。

「なんと……!」

 土砂が、地面から浮きあがった。空に、黒土の雲が浮かぶ。ノアは声を張り上げる。

「馬車を! ――兄上、義姉上! 今のうちに行ってください!」
「ノア、お前は……」
「俺はここで、パートナーを待ちます!」

 ノアははっきりと叫んだ。
 グレッグは目を見開き、「行こう」とリナリアを促した。リナリアも、「ご武運を」とノアを激励する。

「ノア、後で会おう!」
「はい!」

 二人は馬車に乗り込み、走っていった。
 ノアはじっと、土砂を支え続けた。
 それから、四半刻。

「坊ちゃま、もう大丈夫にございます! 若様たちの馬車は過ぎました!」

 箒に乗り、道を確認していた家令が叫ぶ。言葉に、ノアは笑った。

「このままでは化粧が落ちるな」

 ノアは笑う。母は、そっとノアの頬をハンカチで拭った。

「立派です」

 母の言葉に、ノアが笑った。
 びゅう、と風が吹き抜ける。目をかすかに閉じて、開いた時。

「ノアさん!」

 カイルが、眼の前に立っていた。


「カイル……!」
「遅くなってすみません! いまたどり着きました」

 カイルは、ノアの手を、固く握った。温かな感触に、我知らず安堵を覚えた。

「行きましょう」

 カイルは笑って、ノアの隣に並び、剣を共に握った。
 土砂は光り、さっと溶けていった。転移術だ。どこにこれだけの量をたった一人で……。ノアはやや唖然とする。カイルは知らぬ顔で、

「行きましょう」

 と笑った。肩を引き寄せ、ノアをいざなった。そして、かえりみて、父と母に向き直る。

「ブラッド公! 公爵夫人! あなたたちの宝をお預かりします」

 そうして、見事に一礼した。
 父と母は、頷き、

「幸運をいのる」

 カイルとノアは、

「行ってまいります」

 と駆け出した。


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