「オメガの騎士など認めない」と言われましたが
「ふふ」
「ごきげんだな、ノア」
鍛錬場で体を伸ばしていると、ジョンとサムが、側に寄ってきた。ノアははにかんだ。
「まあな」
と笑うと、二人も明らかに安心した顔を見せる。
「よかったよ。丸く収まったんだな」
「ああ。心配をかけたな」
「ノア!」
ジョンが喜びに手を掲げた。ノアは笑って手を合わせる。
「嬉しいよ。まだ俺たち一緒にやっていけるんだな」
「こら、気が早いぞ。まだ花を頂いていないのだし……」
ノアが笑うと、サムが「心配いらねえよ」と応える。
「カイル殿とお前だろ? 確定もいいところだ」
胸をどんと叩くさまは頼もしい。ノアはくすぐったくなる。
「たしかに、そうかもな」
カイルがいれば、百人力だ。にこにこと笑っていると、ジョンとサムが「まったく」と互いに小突きあっている。
「くらわせてくるなあ」
「腹いっぱいだよ」
ノアが首をかしげていると、ふっと影が降りた。
「カイル」
「ノアさん、何話してたの」
肩を優しくおされて、ノアは上体を前に倒れさせる。
「舞踏会の話をしてたんだ」
「へえ」
「皆、俺たちのことを応援してくれてな」
な、と前を見ると、ジョンたちの姿は忽然と消えていた。
「あれ?」
「さっき外周行ったみたいですよ」
「そうなのか……」
言ってくれたらいいのに。少し眉をさげていると、カイルはぎゅっと腕を絡めてきた。
「カイル?」
「なんでも……俺たちも行きます?」
「ああ」
体を起こすと、カイルはノアの手を取った。エスコートするような手の引き方に、不思議になる。じっと、カイルの澄んだ瞳が見つめてくる。
見返すと、ふ、とカイルが眉を下げて笑った。
「行きましょ」
「うん」
二人はゆったりと駆け出した。
「なあ、カイル……」
「はい」
「今日、やっぱり打ち合えないか?」
カイルはちら、とノアを見下ろす。ノアは期待の目で、じっと見上げた。
「やです」
「なんで」
「だから……ノアさんに剣なんて向けられないですから」
「俺も、やわじゃないぞ」
「そういう意味じゃないです。好きだからやなんです」
「俺だってお前のこと好きだぞ」
カイルはふいと顔をそらした。耳が赤く染まっている。
「好きにも色々ありますから」
「む……」
ノアは、軽快に走りながら、黙り込んだ。
「幻滅しますか」
「しない!」
ノアは慌てて首を振った。ぎゅっとカイルの袖を引く。カイルの視線にうかがうような色が宿っていて、ノアは反省する。
「すまない」
「いえ」
「そういうのじゃない。ただ、さみしくて」
ノアはぽつりと呟いた。
「せっかく心が通じ合ったのに」
もう昔みたいに出来ないんだ。そう思うと、なんだか寂しい。カイルが自分と打ち合うのが嫌なら、一緒に踊ったり、なんかオメガとアルファらしいことしか、出来ないのか、そう思うと。
カイルは少しばかりむせていたけど、「まあ」と言葉を継いだ。
「打ち合う以外にも、俺たち色々してたと思うんですけど」
「それは……そうだが」
「そういうのをするのはどうですか?」
「うん」
「俺、急ぎませんし」
そうかな。確かに、付き合うと言っても、することってたいして思い浮かばない。
だから余計に寂しいのかもしれない。
「わかった。ありがとう、カイル」
「いえ」
ノアはそっと身を寄せた。カイルの熱が、ふわりと伝わる。
「近いです」
「じゃれただけだ」
「まったく……」
ノアさんはたち悪いんだから。ぶつぶつ呟く声は、ごきげんなノアには聞こえなかった。