「オメガの騎士など認めない」と言われましたが
「――隙ありっ!」
アンブローズは、細剣を繰り出した。サムの剣を弾き飛ばし、魔法を撃つ。ジョンが飛び抜いた。
「ふははっ甘い! 甘いぞーっ」
地を蹴り、突きを何度も繰り出す。ジョンたちの首に細剣を突きつけた。
「実戦では死んでおったな?」
にっとアンブローズが笑う。ジョンとサムは手を上げ、かしこまる。アンブローズは蹴りを食らわせた。
「まだじゃ! 向かって参れ!」
「ご、ご容赦を……」
鍛錬場は荒れに荒れていた。砂埃が煙のようにあがっている。ノアは、アンブローズに礼をとる。
「殿下、どうかこれ以上は」
「ならんっ! やはり腑抜けておる! わらわが鍛え直してやるっ」
ノアに側近を差し向け、自身は、かしずいている兵士たちを掴み上げた。ノアは攻撃をかわしながら、アンブローズに歩み寄る。
「本気でかかってこぬかっ」
細剣を突きつける。真剣のそれは、兵士の喉に突きつけられた。
「殿下! お許しください!」
「死ぬ気でかかってこぬかっ! わらわに剣をささげたのであろう!?」
「殿下……!」
ノアが側近たちをすり抜け、兵士を奪い返した。
「何をする! この無礼者!」
アンブローズは顔を真っ赤に染め、ノアに細剣を振りかぶった。ノアは微動だにせず、かしずく。
「殿下、どうか私に忠誠を捧げさせてください」
「オメガの忠誠などいらぬっ! どけーっ!」
ノアの上に、魔法と細剣が振り下ろされた。
「ノア……!」
ジョンの悲鳴が上がった。
火が弾けるような音が、あたりに響いた。火花が四方に散る。皆、余波に頭をかかえうずくまった。
――静寂。
土埃のなか、みっつの影があった。
「カイル……」
カイルが、ノアの前に立ちはだかっていた。ノアは大きな背を、先とひとつも変わらない姿勢のまま、見上げていた。
アンブローズの顔が、ぱっと明るくなる。にこっと可憐に破顔する。
「カイルっ! 遅いぞ! 何をしておったのじゃ」
「家の呼び出しです」
カイルの声はまったく平静だった。ぱたぱたと、土埃を風を起こし払う。アンブローズは、「そうか」と細剣を握ったまま手を合わせた。
「それはご苦労! 相手がおらぬのじゃ! わらわの相手をせよ」
ぴっと細剣を構える。ノアの心に、ぴりっと緊張が走る。カイルの横顔をじっと見つめた。
「わかりました」
カイルはにべもなく応える。ノアが目を見開く。知らず握りしめた拳は、汗に冷えていた。カイルは静かに、アンブローズを見返していた。
鍛錬場の中央で、二人は構えていた。
ひょう、と風が起きる。アンブローズが笑って突進した。
「はあっ!」
細剣を繰り出す。カイルは動じず、すっとかわす。
「はっ! はっ……!」
舞うように、アンブローズは二撃、三撃を繰り出した。
金属音が響く。
アンブローズの細剣が、吹っ飛んでいた。衝撃に目を瞑ったアンブローズに、カイルは淀みなく踏み出し、足払いをかけた。
「きゃああっ……!」
アンブローズの体が宙を舞い、地面に落ちた。
「いたっ……」
アンブローズは顔をしかめ、地面で体を抱えた。
「もっと腕を磨いて、出直してください」
カイルは剣をおろした。
「よ、容赦ねえ……」
サムのつぶやきが響いていた。
「姫様……!」
側近たちが、アンブローズに駆け寄る。
「無礼者! 姫様に何をするっ」
「いくらカイル卿といえど、この狼藉!」
「よい」
側近たちを、アンブローズが止めた。「ふふ」と笑う。涙をぬぐった。
「カイル」
翡翠色の瞳が、感激に揺れている。
「そなたはいつも、わらわにまっすぐ向き合ってくれるな」
可憐な唇が、花のようにほころぶ。
「皆、お追従をして、相手をせぬのに。……そなただけじゃ、信頼できるのは」
「姫様……」
「ふふふっ」
心から嬉しそうに、アンブローズは笑う。あまりに可憐でいたいけだった。カイルはそれを静かに、見返していた。
ノアは、じっと黙り込んでいた。胸が、焼け付くように痛かった。