「オメガの騎士など認めない」と言われましたが


「あははははっ! 相変わらずノアは、まったくドレスが似合わぬなあ!」

 第二王子、アンブローズが手を叩いて笑う。花も恥じらう可憐な姿に、今日のドレスはいっとう似合っていた。王太子であるフレデリックは、弟の肩を抱いて、「まったくだ」と言った。

「だから剣に生きるしかないと思い詰めるのだな」

 ノアは、黙って礼を取っていた。忠誠を誓った身として、一人のオメガとしてそれしか選択がない。
 ノアが身にまとっている薄紅色のドレスは、丸みを帯びた花のような作りだ。自分でも全く似合わないとわかっている。

「私には、まったくもったいないものです」
「また、そんなことでは困るぞ! 着こなさねばっ」

 アンブローズが扇子でノアの頭を叩いた。

「ブラッド家はそなたを甘やかしすぎじゃ。やはり剣を取り上げるよう、言わねばならぬな」
「肉体を作り変えるよう、特注のコルセットをおくってやろう」

 フレデリックが、ノアの肩を突いた。ノアはとっさに衝撃を逃がしてしまう。フレデリックは目を眇めて、もう一度押した。

「無礼者。僕が倒れろと言ったら倒れろ」

 ノアは今度は抵抗しなかった。地面に、尻もちをついた。起き上がって礼をとる。肩をフレデリックに踏まれた。

「オメガとして、ちゃんと務めを果たせ。わかったな。そうすればそのみっともなさもましになるだろう」

 そう言って、フレデリックは衣を翻し、去っていった。アンブローズは、じっと見下ろしている。大きな翡翠色の瞳が、ぐっと近寄る。

「兄上は、そなたを心配して居るのじゃぞ」
「承知しております」
「じゃあ、騎士の真似事などやめるな?」
「それは……」

 アンブローズに頬を張られた。悲しげにアンブローズは眉を下げる。

「わらわに命を捧げた身で、逆らうのか?」

 ノアは目を見開いた。

「オメガの身で、騎士の真似事など迷惑じゃ。わらわたちの国に害をなすでない」
「この命は、姫様のものです。剣を捧げさせてください」
「いーやーじゃ。オメガの忠誠などいらぬ」

 にべもない返事に、ノアは言葉に詰まる。アンブローズはふいと顔をそむけたが、ふと愉しげに笑った。

「そうじゃなあ。次の舞踏会で花を頂いたら、認めてやっても良いぞ」

 ノアは、目を見開く。アンブローズが目を細める。

「オメガとして何も出来ぬから軍にこられても、兵士が可哀想であろう? のう。名案じゃ」
「は」
「でなければ、剣は返してもらう」

 そう言って、アンブローズは背を向け去っていった。ノアは呆然と、そこにかしずいていた。
 花をいただく……。それは、舞踏会で一番の美姫だと、皆に称賛されること。

「俺が……?」

 心の底から、冷たくなるのを感じていた。



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