隣の早瀬兄弟
ドアの閉まる音が響いた。
ホテルのドア特有の、重い音とロックの音が、お節介に響いていた。
――ふざけんな。
俺は茫然と、立ち尽くしていた。わなわなと、握った拳が震える。何をしなきゃいけないか、あまりに明瞭にわかりすぎてる。なのに動けないのは、余りの事態に、俺の脳が拒否反応を起こしてるからだ。
あの野郎。
去っていった兄の顔が、蘇る。自分がいつも正しいんだと、信じて疑っていない――。馬鹿が。さっきまでおめおめ母さんに騙されていたくせに、自身の失敗の記録にでも書かないのかよ。つくづく傲慢さに呆れる。けど、このまま馬鹿みたいに、立ち尽くしてもいられなかった。
――理央。
大切な幼馴染の、笑顔が浮かぶ。やわらかく、あどけなくって汚れない……けど、このままじゃ、あいつに汚される。
行かなきゃ。俺は部屋を飛び出した。
「母さん!」
死ぬほどださいけど、仕方ない。俺は隣室の母さんを説き伏せて、確実に後を追うことにした。小学生で財力の限られた俺には、それしかなかったんだ。
兄さんは、「自分は間違いを犯さない」なんて思っているだろう。けど、そんなこと信用できるか。だいたい、「傍にいたい」なんて言ってるけど、実際どういう魂胆か知ったことではない。俺はあいつじゃないし、あいつは間違いを間違いと思わないところがある。ただ、自分のなかで筋が通っていればいいんだ。
クソ野郎。俺だって、アンタのことは信用していない。
*
父さんの運転する車に乗りながら、俺はずっと、スマホを操作してた。見つめるのは、理央のトークルームだった。
理央。
本当に、ヒートなの。確かに、そろそろかなって思ってはいたけど……。
《本編へ続きます》
本編
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