「ありがとう」にはほど遠く


 放課後。
 俺は一生懸命、問題を解いてた。プリント全問正解しないと終われなくて、授業が終わっても終わらなかった。焦るほど間違えて、半分泣きそうになりながら解いてたら、ふっと影が手元に落ちた。
理央りおちゃん」
 ランドセルを背負ったたきが、俺のことを見下ろしてた。俺は目を大きくして、「瀧」と呟いた。心細かった気持ちが、こぼれた。慌てて俯くと、瀧はほっぺにハンカチを当ててきた。
「ごめん、まだプリント終わってなくて」
「そっか」
 大きな手に、頭を優しく撫でられる。
「俺は理央ちゃんといられるし、いいよ」
 机の前にしゃがみこんで、じっと綺麗な目が見上げた。俺は真っ赤になって、でも勇気がわいてきた。
 頭がさっと冴えて、焦る気持ちが消えた。問題にただ、澄んだ気持ちで向き合えた。

「瀧!」
 はなまるのついたプリントを手に、俺は瀧の腕に飛び込んだ。瀧は、ぎゅっと俺のこと抱きしめてくれた。瀧は笑って頭を撫でてくれる。
「おめでとう、理央ちゃん」
「ありがと、瀧のおかげ」
 嬉しくてずっとにこにこしてると、瀧は目元にキスしてきた。頬がぱっと熱くなる。瀧はくすくす笑った。
「真っ赤」
「だって」
「じゃ、帰ろっか」
「うん!」
 ランドセルを背負うと、手を繋いで、俺達は歩き出した。
「俺の家で宿題しよう」
「うん」
 瀧が、当たり前みたいにお家に呼んでくれる。さみしい時、言葉にするよりはやく、瀧は気づく。俺より俺のこと、知ってるみたい。
 ひとりじゃないって、すごく実感する。
「だいすき、瀧」
「俺も理央ちゃんが世界で一番好き」
 ずっとこうしてたい。
 俺は、やわらかな幸福に、胸がぎゅってなった。

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