十六話 ドアを隔てて(瀧視点あり)


「心配したって、言ってるんだよ」

 柔らかい響きが、頭の奥をなでる。
 瀧の湖面みたいな目が、ざあ、と瞼の裏に映る。そっと、引き寄せられた。

「いいご身分ですね」

 佐保さほちゃんの声がよみがえる。二人、隣り合ってた姿も。

「うそつき……」


 目が覚めた。
 視界が揺れてる。瞬きすると、流れて、天井が見えた。自分の部屋だ。
 あれからどうにか寝支度をして、ベッドに入った。
 薬を飲むために起きてを繰り返して、もう夜。

 一日が終わろうとしてた。
 本当に、いいご身分だなぁ……。腕を突っ張って、身を起こした。重くて怠い。変なふうに寝たのか、体に薬がいやに残ってる。痛んだ関節をそっと包んだ。
 それでも、大分マシになってる。眠れてたのが、その証拠だ。

「お薬飲もう」

 何か、お腹に入れて、力をつけないといけない。明日は、学校に行きたい。
 俺は、壁伝いに歩いて、キッチンに向かった。壁はひんやり冷たかった。
 おかゆを取り出すと、電子レンジへ持っていくと、テーブルに置いたスマホが音を立てた。
 長いそれに、はたと俺はそちらへ向かい、手を伸ばす。表示された名前に、目を見開く。
 慌てて応答すると、声がさっと響いた。

くぬぎくん」
「先輩?」

 俺はスマホを持つ手に、もう一方を重ねた。先輩の落ち着いた声が、一人っきりのリビングに響く。

「体調はどうだ?」
「は、はい」

 えっと、と俺は言葉を継ぐ。

「平気です」

 食い気味な声が揺れた。胸の底が、ちょっと慌ててる。

「そうか」

 先輩は、ゆったり応えてくれた。でも、やわらかく息をついたのがわかった。
 そっと胸を押さえた。あたたかい。

「今、少しいいか?」

 先輩はそっと俺に尋ねた。俺は、咄嗟に、

「はい」

 と頷いた。先輩は「ありがとう」と言って、

「外を見てもらえるか?」

 と言った。俺は首を傾げた。外?

「はい」

 頷きつつ、窓へ近づいた。そっとカーテンを開ける。


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