十六話 ドアを隔てて(瀧視点あり)
「は、はい」
咄嗟に応えてしまって、固まった。
「――
瀧の声が聞こえる。どくりと胸が脈打った。
「どうしたの」
瀧の声は、ちょっと割れてた。なんだか、急いでるみたいに聞こえる。かあ、と喉が切羽詰まった。
「なんで……」
思わず呟いてた。さいわい届かなかったのか、瀧は、言葉を続けた。
「具合、まだつらい?」
「え、」
俺ははたと固まる。――まだ?
おろおろ、答えを探してると、瀧が囁いた。
「迎えに行こうか?」
そっと息が届くみたいな、やわらかくて、しっとりした響きだった。
「ぇ」
「救護室でしょ」
俺は目を見開く。救護室? 何で。俺はぴたりと思考が止まってしまう。
「今から行くから」
瀧の言葉に、我に返る。
「へ、平気。もう帰ってきてるから」
慌てて、俺は返した。どういうこと? 何で瀧が、知ってるんだろう? おろおろ、口元に手をやった。知らず、指先を噛んでた。
「……そう」
瀧は黙ってた。けど、頷いた。俺は、それに胸をなで下ろした。なんでだろう。
「あ、あの。……それで、その」
俺は言葉を探しながら、継ぐ。意味のない合いの手を入れて、沈黙を埋めてた。
「あ、明日、休むから……迎えに来なくていいよ」
そこまで言って、息を吐いた。手のなかのスマホが、いきなり重く感じた。かあ、と頬がのぼせたみたいに熱くなった。
「ごめん。なんでもない」
俺は、電話を切った。
スマホを手にしたまま、顔を覆った。身体がぎゅっと縮みそうになる。
恥ずかしい。
なに、言ってるんだろう。
絶対に、変だって思われた。
頭がぐらぐら揺れる、湯だったみたいに熱い。
ひっ、と息が漏れた。
「げほ、げほっ」
咳込んで、胸をぎゅっと押さえる。喉がちりちりする。汗が、ぽたぽたと、床に落ちた。
気持ち悪いって、思われたかも。もう来てくれないかも――
ひゅっと息をのむ。背中が大きく跳ねた。手が震える。
「うぅ……っ」
喉に手を当てる。硬い首輪の感触がした。
なに言ってるんだろ。
いいじゃんか、来なくたって。
瀧が来てくれることに、意味なんて。
頭の中から、刺すみたいに痛みが走った。額を抑えて背を丸める。けほ、と何度も吐き出した。
頭が大きく揺れる。なにか、燻されるみたいな、くすんだ気配がした。
俺はずっと、うずくまって、震えてた。