十話 痛いほどの優しさ


「よし、購買行くか!」
「もう雑魚いのしか残ってねーかも」
「お前が書くのおっせえからだぞ」
「飲み物だけでもあるか?」

 笑いあい、教室を出ると、「あ」と目を見開いた。

「先輩……」
くぬぎくん」

 先輩が、廊下に立っていた。

「先輩、ちっす!」
「ああ、こんにちは」

 星たちが頭を下げる。

「俺ら、行ってるな!」

 星たちは、俺の背中を叩いて行ってしまった。
 俺は先輩と向き合った。先輩は、穏やかに笑った。

「久しぶりだな」
「はい。あの……この前は」

 謝ろうとすると、手で制される。

「言いっこなしだよ。それより、大丈夫か?」

 そっとぼかして尋ねられる。俺は、「はい」と頷いた。

「もう、平気です」
「よかった。ずっと休んでたみたいだから」
「えっ」

 知ってるんだ。見上げると、項に手を当てた。

「星くんたちから聞いた、というかまあ……」

 先輩は口ごもる。首を傾げてると、先輩は咳払いをした。

「まあ、通ってたんだ。君に、改めて渡したくて」

 そう言って、そっと紙袋を差し出した。
 受け取って、俺は中を見て、目を見開いた。

「これ……」
「別のにしようかとも、思ったんだが」

 ケークサレだった。あの時、瀧ともめて、ぐちゃぐちゃになってしまった……。

「君さえよければ、やり直してほしい」
「先輩」
「……いや、順番が違うな」

 先輩は深く頭を下げた。

「先輩?」
佐保さほが、本当にすまない」
「そんな……」

 俺は慌てて首を振る。

「謝らないでください。俺が悪いんです。佐保ちゃんは、瀧を大事に思ってて……」

 言いながら、恥ずかしくなる。俺は、先輩が思ってるような人間じゃない。

「君は悪くない」

 はっきりした声だった。
 先輩は、顔を上げると、まっすぐ見つめてきた。

「俺は、自分の見たものを信じるよ。君は真面目で、一生懸命ないい子だ」

 目を見開く。先輩は、優しく、俺に笑いかけた。

「もう自分を責めて、謝らないでくれ」

 開け放した窓から、風が吹いた。
 涙が、こぼれ落ちた。慌てて、手で拭うと、そっとハンカチが差し出された。
 余計に涙が出た。湖面みたいな瞳が浮かんで。

「使いなさい。目を悪くするよ」

 ひっと、息が漏れた。先輩は、俺についててくれた。

「ありがとうございます」

 俺はす、と息を吸う。涙の余韻の残る顔を上げる。

「俺も先輩と、またお話したいです」

 先輩が、目を見開いた。

「理央〜」
「おやつパンしか、なかったっつーの」

 星たちが、戻ってきた。皆は、俺が泣いてるのを見て、「ん?」と首を傾げた。俺は慌てて涙をふいた。先輩が笑う。

「友達と、よかったら食べてくれ」

 そう言って去っていった。颯爽とした背だった。
 俺は笑って、頭を下げた。

 《完》

 
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