八話 食事会
食事を終えて、ギャラリーを見てた。母さんたちは、漢方の説明をしてもらってる。ありがたかった。
今日は、そこまで具合が悪くならない。体も温かかった。理由は、あんまり考えたくない。可愛い絵葉書を見てると、隣に熱の気配がふっとおりた。瀧だった。
瀧はだまって、となりの小さな置物を見てる。
俺は俯いた。今日の瀧は変だ。瀧は、いつも、拒絶っていうか、線を引いてるのがわかる空気をずっとまとってた。なのに、今日はそれがなかった。
それだけで、体が何だか温かくて、落ち着いてしまうんだ。俺は違うものを見に行くふりをして、その場を離れた。すると、手を掴まれた。
見上げると、瀧が、じっと俺を見てた。俺の手を掴む瀧の手は、静かだった。
「瀧」
瀧は答えなかった。俺の目から、涙がこぼれた。慌てて拭うと、瀧がハンカチを押し当ててくる。やさしい石鹸と、瀧の香りがする。悲しくて、胸が痛くて。思わずしゃくりあげる。
こんなところで泣いたら駄目だって思うのに、止まらなかった。呼吸が、上手くできなくなる。
瀧にそっと引き寄せられた。瀧の肩口に、涙が吸われる。
「俺たち、先に出てるから」
そう言って、瀧は、俺を引き寄せたまま、店の外へ歩き出した。
ベルの音がして、扉が閉まると、俺はせきを切ったように泣き出した。
ひどい。ひどいよ、瀧。
今更、こんなふうに、優しくするなんて。
全部、自分が悪かったんだって、もう諦めるって、決めたのに。どうして無茶苦茶にしていくんだ。
瀧は、何も言わなかった。ただずっと、俺のことを抱きしめてた。――昔みたいに、優しく。
《完》
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