八話 食事会


 到着したのは、落ち着いた雰囲気の古民家だった。お店って感じがしなくて、俺はじっと見上げる。優しい木と緑の匂いがする。おばさんが、振り返って笑う。

「ここは薬膳のお店でね。夫婦でゆったりやってるところなの」
「薬膳……」
「お粥もあってね。体に優しくて美味しいのよ」

 おかゆがあるんだ。ちょっと、かなり安心していた。お粥なら、食べれると思う。最近ご飯、あまり喉を通らなかったから、すごくありがたい。おばさんが、気遣ってくれたのかな。

「悪くないけど。男の子には足りないんじゃない?」

 母さんが腕組みして首を傾げる。そして瀧と俺を見やった。俺は慌てて首を振る。でも、確かに瀧は物足りないかも。

「いいのよ。瀧がここがいいって言ったんだもの」

 そう言って、おばさんは俺に目配せした。俺は目を瞬かせた。瀧が……? どうして。

「いいから入ろうよ」

 瀧がちょっと硬い声で言った。さっさとおばさんを促す。おばさんは「はいはい」と笑って、母さんと連れ立って店に入った。瀧が店に入る。俺は慌ててついていった。瀧が、扉を開けてた。

「あ、ありがと」

 扉をくぐると、瀧は黙ってそれを閉めた。俺はずっと、目を合わせられなかった。そんな、まさか……ありえない。そう、自分を納得させて。
 おばさんの言葉通り、店内はすごく落ち着いてゆったりしてた。
 店主が挨拶にきてくれて、優しい顔で「ギャラリーや漢方もあるので見ていってくださいね」と言ってくれた。
 出してもらったお茶がすごく飲みやすくて、俺は感動した。

「おいしい?」
「はい。すごくホッとする味で……」
「へえ。これ売ってるのかしら」

 おばさんと母さんの言葉に、あたたかい気持ちになる。視線を感じて、ぱっと見上げると、瀧が俺を見てた。目が合うとそらされる。俺も黙って、目をそらした。ひたすら、お茶をゆっくり飲んだ。

「ふたりは学校ではどう?」

 スープを飲みながら、おばさんは尋ねた。俺はおかゆをすくう手が固まる。

「えっと、学校ではそれぞれ過ごしてて……」

 俺はいつも通り答えた。かなりずるいと思うけど、押しかけてることは言いたくなかった。仲良くしてるとも、言えなかった。
 でも、実際今はそれであってた。俺はもう、瀧の所へ押しかけるのはやめたし、それぞれ別で過ごしてる。
 それでも瀧は、どう聞いたかって気になった。保身って聞いたかも。気にしないって決めても、胸が塞がった。

「あら、そうなの?」
「まあ、学年も違うのに、わざわざくっついてる意味もないわよね」

 母さんの言葉にぐさりとなる。「うん」と頷いた。

「あんた押しかけたら駄目よ? お互い、別の関係も作らなきゃ」

 母さんは、よく俺をわかってる。何度も頷く。

あやちゃんは真面目なんだから。瀧が忙しいせいで、時間もないものね」

 俺は、笑ってごまかした。おかゆを口に含む。泣きそうな気持ちを、一生懸命飲み込んでた。
 ……もう、諦めるって決めたからかな。
 自分が今まで、どれだけ迷惑で、勝手だったかって、わかるんだ。瀧にだって、付き合いがあるのに。ずっと押しかけて、むちゃくちゃにしてたんだ。

『本当に迷惑だよね』

 その言葉が、本当に真に迫ってくる。辛くて、恥ずかしかった。


3/4ページ
スキ