三十二話 ゆらめき


 先輩が、帰って。
 夜。俺は、ひとり病室の天井を見上げてた。
 検査結果次第だけど、たぶん問題ない。だから、ある程度の荷物はもう、まとめてしまった。進まない課題だけ、机に無駄に広げてある。
 瀧。
 俺はこれから、どうしたらいいんだろう。何気ない独白に、笑った。
 どうするも何も、俺はあいつらを訴えるんだ。それで、きっと平穏な日々を取り戻す。この気持ちと決意に、嘘はなかった。けど。
 瀧に、どう伝えたらいいんだろう。涙が、またじわりとにじんだ。
 さっき、ちょっと通話しただけで、こんなに動じるなんて。情けない。こんなことでは、ちゃんとあいつらと戦えない。
 知られたくない。言いたくない。
 けど、俺以外の人の口から、聞かれるのもいやだった。とじた瞼の上に、手の甲をのせる。ふうと息をついた。

「瀧……」

 知られたくない。けど、言わなきゃ。でも、がっかりされるかも……今度こそ。
 ふ、と笑う。自意識過剰だな。
 捨てられたって思ってたくせに。がっかりなんて、期待してるんだ。
 目を閉じたら、勝手に涙がこぼれてくる。コップから溢れた水みたいに、抵抗なく流れてくる。ゆっくり呼吸をする。
 スマホを手にとって、瀧の名前を呼びだした。もういっそ、今話してしまえばいい。電話をかけようとする。けど。
 でも、本当に戻れなくなるかもしれない。
 そんな弱い気持ちが、必死になって俺を止めてた。やけになるなって。でも、結局わかることだろ。それでも、いやだ。瀧に嫌われたくない――。
 スマホを鞄にしまった。丸くなって、ベッドに突っ伏す。心が二つに分かれて、互いを責めてた。けど、二人とも言ってる。意気地なしって。

 どうしようもない。俺は悔しくて、ずっと歯を食いしばってた。



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