三十話 揺れて留まる
目が覚めると、病院の一室だった。視界に広がるのは、大きな点滴のパック。
そうか、俺は検査で入院になったんだっけ。身を起こすと、思いの外、簡単に持ち上がった。体は、想像してたより軽い。よかった。
首や背を伸ばして、外を見る。朝日の透けたカーテンは、綺麗だった。
俺は、あたりを見渡した。まだ、夢の続きにいるみたいで。
「理央くん、目が覚めましたか?」
看護師さんが、そっと様子を見に来てくれた。俺は、頷いて笑った。
「具合はどう?」
「大丈夫です。ありがとうございます」
「よかった。ちょっと換えるからね」
点滴を換えてくれた。てきぱきとした背中を見ていると、ふいに、俺は自分の髪が気になった。
手をやると、あちこち長かったり短かったり、本当に、ざんばらに切られてるのがわかった。ひゅっと、胸の奥が冷たくなる。落ち着かなくちゃ。すうと息をすっていると、看護師さんが気づいて、背中をさすってくれた。
「大丈夫です」
頷いて、俺はまた、動揺していた。この髪、どうしたらいいんだろう。早く、そろえてしまいたいけど、切っていいのかな。理容室は、病院にもある。
でも。こういうときは、証拠を残さないと駄目だって。切るにしても、写真に残さないといけないよな。それなら、先生にちゃんと言わないと。そう思うけど、言葉が出なかった。
これくらいで、こんなにおびえちゃ駄目だ。先輩が助けてくれたんだし……。そう思うのに、言葉にするのさえ、ためらってる。
――母さんに、なんて言おう。
「とりあえず、ご飯を食べようか」
看護師さんが、そっと俺に言った。俺に落ち着いて、と優しく伝えてくれていた。俺は、頷いた。泣きたい気持ちを、一生懸命こらえてた。
ご飯を食べてから、先生の説明を受けて。また俺はベッドに横たわってた。
血液検査の結果、俺はフェロモン値がむちゃくちゃだったらしい。複数のアルファのフェロモンに、侵されたせいらしい。ヒートにも、影響が出るかもって。
「うっ……」
また吐いてしまう。これくらいで、情けない。何かされたわけでもないだろ。歯を食いしばって、涙を拭った。点滴で、体の中を整えるって。そうしたら、きっと全部戻る。面会時間になって、先輩が来てくれた。
「先輩」
「おはよう」
俺はあわてる。起きあがろうとする俺を、先輩は押しとどめる。
「先輩、部活は……」
「ちゃんと出るよ。だが、どうしても顔が見たかった」
俺がおろおろしていると、先輩は俺の顔を見て、
「なにか欲しいものはないか」
と穏やかに聞いてくれた。俺は、首を振った。それから、「えっと」と言う。
「うん?」
「えっと……」
先輩に、負担をかけたくない。でも、心配をかけてるのに、言うのも失礼な気がした。早く元気にならなきゃ。俺はくちごもる。えっと……。
「先輩、」
口を開いたとき、大きな足音が近づいてきた。
「――理央!」
扉が勢いよく開いて。
母さんが、病室に入ってきた。