二十八話 不穏な刃


「……あ?」

 男たちが目を見開く。

「誓いたくありません」

 男たちの目の光が、いっそう歪んだ。がたがた身体が震えだす。わからない、けど、逃げなくちゃ……! 俺は、視線をさまよわせた。なんとか、隙を探さなきゃ。

「はあ?」

 けど、男が近づいてきた。覆いかぶさるみたいに、俺を見下ろしてる。体の熱気まで伝わってきて、俺はえづいた。

「お前、自分の立場わかってんの? ――くそオメガがよお!」

 ばちり、頭の中で音がした。フェロモンで威圧されたんだって、目眩がしてから気づいた。口元をおさえる。倒れちゃ駄目だ。

「俺らみてーな三下のアルファには、媚を売れませんってか!?なめてんじゃねえぞ!」

 がん、と音が立つ。後ろの壁、腰の横ぎりぎりに、男の足が当たってた。

「おーい、暴力はナシだろ」
「証拠残るもんな」

 後ろから、笑い声と一緒に迫ってくる。ぐるりと、囲まれた。

「俺たちアルファなんだし」

 一斉に、フェロモンで襲いかかられた。

「――うっ、」

 頭の中が、ぐちゃぐちゃに揺れる。身体が逆さまになったみたいに、視界が揺れた。

「うぇっ――げほ、げほ……っ!」

 膝をついて、俺は吐いていた。

「うわっ、きたねー!」
「撮れ、撮れ」

 どっと嘲笑があがった。スマホを構えて、写真を撮りだしたみたいだ。霞んだ視界の向こう音が響く。

「瀧に送ってやろうぜ!」
「ドン引きするだろうなー」

 口にした名前に、思わず顔を上げた。

「誰が顔上げていいって言ったよ?」

 またフェロモンが襲ってきて、俺はうずくまる。息ができない。えづきながら、必死に呼吸する。

「うっ、げほ、ひっ……」

 髪を掴まれて、顔を上げさせられた。

「汚え面」

 えらい違いだよ。
 中心の男が、すごい冷たい目で、俺を見下ろしてた。ぎらぎらしてて、瞳孔が、真っ黒の穴みたいに見えた。

「最後通牒だ」

 男は静かに、ひとことひとこと、はっきり続けた。

「二度と近づくな。誓って消えろ」

 でねえと二度と外歩けねえようにするぞ。

 喉に、息が戻る。喉につまりそうになって、むせこんだ。息ができない。

「きたねえな」

 不快そうに、目を細められる。俺のこと、同じ人間と思ってない……。

「早く言えよ!」

 皆嗤ってる。頭の中に、ぐるぐる、回ってた。掴まれた髪が痛い。
 こわい。たすけて、たき――

「……っうう、」

 思わず呼んだ名前に、涙がこぼれた。

「泣くのかよ」
「みっともねーな」

 皆が嗤った。嘲りの声が、思考を裂いてく。
 やめて。

「まじ消えろよ」
「お前なんかいたところで、誰もよろこばねーよ」
『理央(りお)』

 ひどい言葉のなか、声がのぼってくる。父さん。やわらかい、懐かしい声。フェロモンに、かき消されては、戻ってくる。

「役立たず」

 やめて。

『理央ちゃん』

 瀧、

「ストーカーがよ」

 やめて……!

『世界でいちばん好き』

 ――「気持ち悪い」――

 重なった音が、切れて。
 体のなかで、何かが膨れた。



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