二十八話 不穏な刃


 俺は俯きながら、家の鍵を締めていた。
 もう、朝が来てしまった。胸の底が、鉛を飲んだみたいに重い。なのに、不安定に揺れていて、項のあたりがざわざわしていた。
 まばゆい光が、ひどく場違いで怖かった。そぞろに、学校までの道を歩く。アスファルトの硬さが、靴底から響いていた。
 先輩に、お礼を言わなくちゃ。
 ゼリーは、舌にもお腹にも優しい味だった。なんだかまた、ご飯の味がぴりぴりしてたのに。優しさは、先輩に似てた。俺はスマホを確認する。
 先輩からの、メッセージと――瀧(たき)からの。開いて、そっと見てた。
 昨日、瀧との通話には出られなかった。どうしても話せる気持ちになれなくて。今日は、ちゃんとしなくちゃ。そもそも、こんな風に落ち込んでる場合じゃないんだ。
 もっと頑張らなくちゃ。皆に、相応しい自分になれるように……。自分を、一生懸命、鼓舞する。
 なのに真っ白に照りつけてる、地面の「止まれ」の文字に、思わず気持ちがすくんで、大きく息をついた。

「おい」

 後ろから、低い声がかかる。
 威圧的な様子に、身がはねた。俺? なんとなく、振り返るのが怖くて、早足で進んだ。

「おい、お前に言ってんだよ」

 低い声にざらついたものが混じる。気配が大股で、近づいてきた。振り返ると、数人の男がいた。俺のことを、すごい怖い目で見てる。
 俺は向き直り、駆け出そうとした。すると、曲がり角から、またぞろりと男たちが出てきて、行き道をふさがれる。
 ――挟まれた。
 自分の不注意を呪ったときには、遅かった。男たちに、じりじりと前と後ろから、距離を詰められ、ぐるりと囲まれる。

「面貸せよ」

 頭の芯が、冷たくなった。鼓動と息が、浅く速くなりだしていた。



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