二十七話 ふたつの涙
気づいたら、僕は明るくて広い道を歩いてた。よく見れば、通ってる塾が前にある。乾いた笑いが出る。こんなときまで、僕は努力することばかり、考えちゃうんだ。ちっとも報われないのにね。
「――佐保ちゃん?」
ぼんやり歩いてると、ちょうど塾から、人が出てきた。その中の一人に、声をかけられる。
よく見た顔は、同級生の猿の一人だ。一応アルファだからって、僕のこと分不相応にも、気があるみたいな感じの。
猿は僕を見ると、目を見開いて駆けてきた。
「どうしたの!?なんかつらいことでもあった?」
そこで僕は、自分が泣いてることに気づいた。
泣きながら、歩いてきちゃったのかあ……。はは、みっともない。僕は笑ってほおをぬぐう。
「なんでもない」
「なんでもないことないだろ!」
猿は必死に、言い募ってくる。
うざいなあ。僕の相手になれるとでも思ってるのかな。でも、こんな猿相手でも、今は温かく感じる。本当に、相当、弱っちゃってるんだ。
だって。あの日からずっと、お兄ちゃんに冷たくされ続けて……それで、これだもん。僕は心配してるのに、誰より皆のこと……!
僕は耐えきれずに、泣き出した。普段泣いてないから、加減なんてわかんない。ひたすら、声を上げて、気持ちを落ち着けようとする。
「助けて……!」
こんなに頑張ってるのに、心配してるのに……! 誰も、僕の気持ち、わかってくれないの。お兄ちゃんも、瀧くんも……!
はあはあ、呼吸が荒くなる。こんな、あいつみたいにみっともない真似、したくないのに。でも、僕のは真実の涙、本当の苦しみなんだ……!
だって、壊される。ずっと、必死に頑張ってきたのに。あの寄生虫に、僕の人生、一生取りつかれる……! そんなの、もうまっぴらなのに!
「お兄ちゃんを助けて……っ!」
僕を助けて。
ただひたすら、目の前の何かに縋って、僕は叫び続けた。
《完》