二十七話 ふたつの涙


 キッチンに座りこんで、ひたすら、紙袋の中に息をしてた。
 ふいに、インターホンが鳴る。俺は扉の方を見た。
 ――瀧(たき)?
 俺は、誘われるように外に出た。家の前に、大きな影がひとつ立っていた。

「樟くん。大丈夫か」
「先輩……」

 先輩が、ひどく心配そうな顔で俺を見ていた。俺はしばらく、先輩と視線を合わせてた。それから、慌てて先輩のもとへ行く。

「先輩。すみませ――」

 先輩はそっと手で制する。

「謝らなくていい。俺こそすまない。君の体調が悪いのに、押しかけて……」

 先輩は、低く落ち着いた声を、柔らかくして俺に伝える。先輩は俺を見つめた。

「どうしても心配で……いてもたってもいられなくてな」

 そう言って、手に持っていた箱を掲げた。

「ゼリーだ。口に合うといいんだが」

 優しくて、温かい目。
 俺は、言葉に詰まる。詰まった拍子に、頬が引きつった。止められず、涙がこぼれ出る。背がはねて、ひ、と高い嗚咽が漏れた。

「樟くん」

 先輩は俺のところへ、駆けてきた。そっと俺の背に手をやると、優しくあやしてくれる。

「すみません。迷惑ばっかり……」

 それだけ言うのが、精一杯だった。先輩は、

「迷惑なものか」

 と首を振った。そっと、頬にハンカチを当てられる。あたたかい香りがした。泣きながら、それを受け取る。

「それより、もっと頼ってくれ」

 ぐちゃぐちゃの視界の向こう、先輩は俺を見てた。見てるのが、わかった。

「君がつらいとき、何できないほうがつらい」

 そっと、肩甲骨のあたりを優しく叩かれる。あんまりにも、優しい仕草で。
 俺は、泣くことしかできなかった。



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