那智くんといること(希結×那智)
「また明日な」
隣の家なのに、いつも那智くんは送ってくれる。
扉が閉まるまで、那智くんは手を振ってくれてた。
名残惜しく、玄関に立ってると、背後で笑い声がした。
「よくやるなあ」
沙結兄が小馬鹿にしたみたいに立ってた。塾に行くみたいだ。俺は嫌な気持ちになったけど、黙って家に上がった。
どん、と小突かれる。俺はたたきに尻もちを着いた。
「オメガの真似事なんて情けねえ真似しやがって。それでもアルファか?」
「……沙結兄には関係ない」
「ははっ。俺もそうありたいのは山々だけどな」
俺の肩を踏んできた。
「お前が江利也を名乗る以上は、関わりが出るんだよ。このカスが」
蹴り飛ばされて、俺は歯を食いしばった。挑発に乗っちゃ駄目だ。那智くんとの時間が俺の辛抱を支えていた。
「いい加減自覚を持てよ。よりにもよってあんな不良品とべたべたしやがって」
「……は?」
俺は顔を上げる。今、こいつは聞き捨てならないことを言った。沙結兄は、冷笑する。
「何が一緒に勉強だか。自分がお前の足を引っ張ってる自覚もないなんて、とんだ愚図だな。あれで浮結と同い年とは、お里が知れるぜ」
一家揃ってきりぎりすじゃあ当然か。
頭がざあっと冷える。
「おい。まさか那智くんのこと、言ってんの?」
「それ以外に誰がいるんだよ。頭の鈍さまで移ったか?」
「やめろ。それ以上言ったら――」
「言ったら何だよ?」
「ぶっ殺すぞ。この最低のクソ野郎」
◇
めちゃくちゃに殴られて、俺は部屋に閉じ込められてた。家は縦の関係が厳しくて兄貴に歯向かったら何がどうあれ謹慎って決まってる。
くそったれ。
俺はがちがち歯を食いしばってた。
許せなかった。クソ野郎の兄貴も、言うなりの皆も、何より弱い自分が。
ずーっと兄貴は俺が那智くんと仲良くするのについて、親にうるさく言ってる。
「希結の教育によくない」って。
ほっとけよクソ野郎。自分に好きな人がいないからって、無敵ぶりやがって。
父さんも母さんも、俺が三男だからって目こぼししてくれてるのはわかってる。
早く大人になりたい。
そしたら、那智くんとずっと一緒にいられるのに。誰にも文句は言わせないのに。
那智くんが遠くに引っ越すって聞いたのは、それからひと月後だった。
《完》
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