那智くんといること(希結×那智)


「お邪魔しまーす」
「いらっしゃい、希結きゆ!」

 にこにこ嬉しそうな那智なちくんに招かれて、俺は部屋の中に入った。手を洗って、リビングに行くと、テーブルに宿題が広げてあった。

「希結が来るの楽しみで、準備してたんだ」

 頭を撫でて言われて、胸がぎゅってなる。はあ、可愛いなあ。
 今日は一緒にお勉強しようって約束だった。
 テストの点が悪くて父さんに叱られ、沙結兄さゆにいにいびられ、俺は悔しくて。っていうのも別に俺は馬鹿じゃないから、その日、めちゃくちゃ沙結兄にいびられてメンタルの調子が悪かっただけだし、一番俺が悔しいわけだし。
 浮結兄ふゆにいといえば我関せずで、ちょっと愚痴ったらただ一言、

「そういうアクシデント込みで実力だろ」

 とだけ言われて読書に戻られた。
 その通りだけどさあ! テストの日もなんだけど、本当にこの人我関せずなんだよね!
 言ってくれて「よしとけよ」くらい! それも煩いからって感じだし。
 あんまり辛くて、悔し泣きしてたら、母さんがゼリーをくれた。

「希結が頑張ってること、知ってますからね。次は気をつけましょうね」

 って。母さんは父さんに絶対の人だから、こういうフォローを後でくれる。
 それがまた気に食わなかったのか、沙結兄にとことん「勉強見てやる」って言われて泣くまでサンドバッグにされた。

「これくらいも解けないとか馬鹿じゃねえの。これで江利也えりや家名乗るとか気楽でいいな、末っ子は」

 くそっ、くそ! いっぺんしね!
 泣きながらテキストに向かってた。兄貴の野郎は自分が気が済むまで張り付いてて、俺はヘトヘトだった。

 その日の朝、迎えに来てくれた那智くんは、俺の目元が赤いのを気づいて、二人きりになってから「どうしたんだ」って聞いてくれた。
 那智くんって、いつもストレートなのに、こういうところ、本当に本当にずるい。
 僕は抱きついて泣いてしまった。

「辛かったな」

 那智くんは俺を笑わなかったし、責めもしなかった。俺がわかってるの、わかってるから。

「誰だって調子悪いときあるよ。俺もこの間な……」

 優しく慰めて、自分の失敗談も聞かせてくれた。那智くんと話してると、ずーっと悔しくて情けなくて、凝り固まった気持ちが解れた。
 手をつないで、肩を寄せ合う。俺は、弱ってることを口実に、那智くんの甘い匂いを思いきり堪能する。

「あんまり言われるから、テスト不安になってきた」

 と言うと、那智くんがぎゅっと抱きしめてくれた。

「大丈夫。希結はできるよ。希結なら絶対できる」
「うん……」

 ちょっと弱く言うと、那智くんは、頭を撫でながら、ちょっと考え込んでた。それから、

「そうだ」

 と明るい声で言う。

「テストが不安なら、一緒に勉強するか? 二人なら怖くないし、励まし合えるだろ?」

 にこって笑った。
 ちょっとよくわからない理屈だけど、那智くんの笑顔には、理屈を通す優しさと真っ直ぐさがあった。
 俺はぎゅうっと抱きついて「うん」と言った。



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