江利也兄弟の朝


 うざってえ。
 一番下のくせに、アルファ混じりの臭いオメガ毎日家に引き込みやがって。
 ふあ、とあくびをしながら俺は車に乗り込んだ。
 浮結はとっくに学校に向かったあとだった。覇気がなかったくせに三年前くらいからやたらと張り切りだして、父さんと激論して自分で選んだ学校に行った。
 母さん曰く「迎えに行きたい人がいるから」ってよ。馬鹿か。ガキのくせに何を思い詰めてるんだか。
 それでも好転してる分、希結の馬鹿よりましだが。あのボケはあのオメガと近くの学校がいいって散々ごねて通しやがった。馬鹿か。父さんも母さんも、何を甘やかしてるんだよ。まあ他、全部落ちやがったんだけどよ。殺すぞ。
 今からでもいい学校に転校できるようにしとくべきって、再三言ってるし、それにおいては両親も頷いて対策は取らせてるけど。
 あのくそオメガがいる限り頷かねえだろうなあ。甘やかされてる分、そういう所頑固で通せるからよ。

「好きにさせときゃいいだろ。希結の人生なんだし」

 浮結の野郎は、本当に自分のことにしか関心がない。あいつは殺すというか情を持つ人格に生まれ直せと思う。

 苛々する。
 足を組んで景色が流れるのを見る。
 桜の季節も終わりか。葉桜を見て、俺は物さみしい気持ちになる。
 やることは本当に多い。移動中さえ見なきゃいけないことはたくさんあるが、景色もまた得がたい。

「ふう」

 ようやく、落ち着いてきた。
 運転手の巽さんに、「取り乱してすみません」と声を掛けると、「いえ」と穏やかに笑われた。
 この人は長い間江利也えりや家の運転手をしてる。だから、アルファが苛々してようが、ハンドルを切り違うことはない。
 けど、毎日送ってもらうものへの儀礼や敬意というものはあるから。

 もう一度息をつく。
 何であんなに、弟たちはオメガってものにいれあげ、捧げるんだろう。
 それは、自分に寄ってくるものは美しいものの方がいいと思う。俺だって綺麗なものは好きだ。付き合うのだってやぶさかじゃない。けど、自分の人生を捧げるのは違うんじゃないか。捧げさせるのが、アルファの本懐ってものじゃないかな。

 オメガがアルファに捧げさせるものだっていうなら、俺はそんなのは嫌だな。

 俺は、心に決めたオメガは絶対に自分のもとに縛り付けて離さない。全部俺に捧げてもらう。
 そう決めてる。

 来たるべき時を思って、俺は今すべきことに没頭するのだった。


 《完》
 
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