安心毛布だと思ってたら伴侶にされた2


「ひゃっ……」
「ごめんね、パージ」

 ふたりで話そう。
 そう言って、クラスを後にした。

 二人きりになって、少し落ち着いた。ぎゅってリーズはずっとぼくを抱きしめてて、ぼくは落ち着いてた。こんなことをしたのはリーズなのに、ばかみたいだ。
 でも、どうしてもずっと可愛いリーズだから。嫌いになんてなれない。怒りきれない……。
 泣いてるぼくを膝に乗せて、こめかみに、リーズがキスをする。

「ごめんね、パージ。俺浮かれて」
「リーズ」
「パージが奥さんになったことが嬉しくて。本当にごめん……」

 強く抱かれて、ぼくは俯いた。熱の伝わり方も、受け取り方もなにもかも違う。
 ぼくはすんと鼻を鳴らした。

「ぼく、夢だったんだよ」
「うん」
「リーズを一人前にすること」

 ぽろりと、また涙が零れる。もう泣き止んだと思ったのに、止まらない。しゃくりあげると、リーズが胸に引き寄せてきた。

「安心毛布として、ちゃんとリーズを送り出すって、ずっと頑張ってきたのに」
「パージ」
「こんな……」

 全部台無しだ。リーズは一人前の魔道士として認められないし、ぼくはどこにもいけない。どうしたらいいかわからなかった。

「ごめん」

 リーズが、正面からぼくを抱き直した。
 肩に手をおいて、じっとぼくを見つめる。緑の瞳は真摯な光でぼくに向ってくる。

「俺はパージが好き」
「知ってるよ。でも」
「安心毛布じゃなくて、ずっと好きだった」

 キスされて、目を瞬く。

「ぼく、安心毛布だよ」
「安心毛布だけが、パージじゃないでしょ」

 言葉のすくないリーズが、一生懸命、言葉を紡いでる。

「俺が巣立ったら、パージはそれを手に入れるつもりだったんでしょ」
「それは」

 そうかもしれない。顔に出たみたいで、リーズはすごく痛そうな顔をして、首を振った。

「いやだった。どうして俺と一緒に得ちゃいけないの?」
「リーズ」
「俺はパージの通過点なの? そんなの嫌だ。俺はパージの運命がほしい」

 キスされる。ぼくの唇を確かめるみたいに、何度も。

「パージにとって俺は何? 御主人様じゃなかったら、俺を嫌い?」

 どこまでも見通そうって瞳で、ぼくの目を覗き込む。そんなこと、

「考えたことなかった」

 ぼくは呟く。

「だってリーズはずっと、リーズだったもの」

 理由なんてない。リーズに初めて会ったときから、すごく可愛くて、愛しくて、大切だった。

「御主人様だからなんて、わからないよ」

 リーズ以外の御主人様なんて、考えたことないんだもの。泣きながら言うぼくを、リーズはすがるみたいに抱きしめてきた。

「なら、もっと考えて。俺のこと」
「リーズ」
「俺たちはもう御主人様でも安心毛布でもない。でしょ?」

 そう言って、リーズは唇を重ねてきた。大切だって、言われてる気がして。ぼくは涙が一杯出て、リーズの腕にすがってた。

 わからない。
 リーズの言うことは難しい。でも、今、リーズの腕しか、ない――ちがう、考えられなかった。
 リーズは、ぼくと違うなにかになろうとしてる。その腕に、ついていきたかった。

「リーズ」
「好き、パージ。世界一好き」

 大切そうに頬ずりされて、頬の内側から火照ってきた。おずおずとリーズの背に手を回す。
 そっと撫でてあげる。人の姿になって、いいことがひとつ、あるなら。
 リーズの背を撫でてあげられることだった。

「パージ。目を閉じて」

 ぼくは、躊躇した。これをしたら、きっと戻れない。けど。

「んっ……」

 ぼくは目を閉じていた。リーズの唇を感じる。その背にすがった。
 怖い。今までの夢が、全部おかしくなってしまったんだもの。けれども。

「リーズ……」
「パージ。愛してる」

 もし越えられるなら、それがいいのかも。
 わからないけど、離れることだけは考えられなかった。

「すき」

 思わず、こぼれた言葉に、リーズは笑った。額まで真っ赤に染まっている。

「大好きだよ」

 これから、ぼくらがどうなるか、わからない。
 けど。
 もう少しだけ、頑張ろう。そうしたら、きっと、リーズに甘えることができるから。
 リーズの熱い唇に、ぼくから、応えた。
 リーズが息を飲んで、固まったので、思わず笑った。

 《完》
 

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