安心毛布だと思ってたら伴侶にされた2
結局学園に行ったのはお昼からだった。
リーズは最高学年で、卒業を待つばかりだからそれでいいんだけど……一杯夫婦のことをされた体で行くのは余計に気まずい。
「リーズ、腰やだ……」
「まだパージ、ひとりじゃバランスうまく取れないでしょ」
腰を抱かれて歩かされる。実際リーズの言う通りで、この3日で歩く練習はしてるんだけど、まだおぼつかなかった。というか、腰が立たないせいもあると思う……。腰を抱かれてるだけで落ち着かなくて、でも、あんまり言うといつもみたいに抱き上げられそうで、ぼくは真っ赤になってちいさくなってた。
「魔法で飛ぶ……」
「だめ。ちゃんと練習して」
言い聞かせるようにキスされて、何も言えなくなる。リーズは本当に変。
こんなことしておいて、なんでこんなに甘いの?
「おっ、リーズ。おそ――」
クラウスさんが、こちらを見て目を見開いた。真っ赤になって、思わずリーズの後ろに隠れる。
「だ、誰だそれ」
「あっその……」
「パージ」
誤魔化そうとしたら、さっさと真相を告げられてしまった。リーズが嬉しそうにぼくを抱き寄せる。
「奥さんになったんだ」
リーズの言葉に、クラウスさんが目をむいて、
「えー!」
と叫ぶ。それから頭を抱えて、額を撫でさすった。ぼくは余りのいたたまれなさに泣きたくなった。でも、リーズを守らなきゃ、その一念で、「違うんです」と前に進みでる。
「ちょっとした手違いで、リーズは……」
「お前……とうとうやったのか……!」
ぼくの否定に、クラウスさんの大きな声が被った。
えっ。
クラウスさんは立ち上がり、リーズに拳を出した。たいして気のないそぶりで、リーズも合わせる。
「やったな! これで次の学会は俺達のものだ!」
「俺は別にいいよ。お前にあげる」
「いや、そこはちゃんとしようぜ!」
きゃっきゃとはしゃぐクラウスさんに、ぼくは唖然となる。クラウスさんは、メガネを握りながら、「羨ましい」と叫んだ。
「俺もいのちある安心毛布なら、絶対実証したのに」
「ちょっと、お前のオタクと一緒にしないでよ。俺のは愛なんだから」
「ああ、ああすまん! ははは!」
ぼくはあんぐりとしてしまう。
どういうこと? つまり……呆然としていると、周囲の魔道士たちもわっと集まってきた。
「すごい! 大成功じゃないか!」
「よく見せて! モデルはお前が?」
「馬鹿言わないでよ。パージの魂の形から」
「そうか……! へえ」
わいわいと魔道士たちに覗き込まれて、ぼくは身を小さくする。
「あんまり見ないで。俺の奥さんなんだから」
ぎゅっと庇うように抱きしめられる。思わずリーズの腕の中に隠れてしまう。それにリーズは嬉しそうにして、魔道士たちは「おお」と言った。
「いいなあ……」
「俺にもはやく術式を教えてくれよ!」
みながそれぞれの安心毛布を抱きしめながら言い募る。安心毛布たちは「勘弁してっ」と叫んだ。
「ぼくらは君たちを巣立たせるためにいるんだから!」
「そうだよ! そんな、奥さんなんて……!」
怒る仲間たちの言葉が刺さる。同調したいけど、彼らの言葉は、ぼくを刺してるってわかったから。
「恥知らず!」
「御主人様を堕落させるなんて名折れもいいとこ!」
ぼくは息をのんだ。
「うるさい。壊すぞてめえら」
とリーズが冷たい声で言って、周囲の魔道士たちが息巻いている。ぼくはそれを止めなきゃって思うのに、体が動かなくて。
ひぐ、と喉がなる。止められなくて、顔を覆ってわっと泣き出してしまった。
「パージ……!」
「わあああん……!」
うずくまって泣くぼくに、リーズはすぐにひざまずいて抱きしめてきた。ぼくはいやいやって背を向ける。
皆の言う通りだ。ぼくは安心毛布失格だ。
もうコミュニティにも絶対行けない。恥ずかしい。消えたい。逃げ出してひとりになりたい。
けど、御主人様をおいてどこかへ行くなんて、それこそ安心毛布失格だ。最後の矜持で、どんなに恥ずかしくてもぼくはそこから動けなかった。
「もうやだ……」
小さくなって泣いていると、リーズの息をのむ音が聞こえる。リーズがぼくを引き寄せて――抱き上げた。