安心毛布だと思ってたら伴侶にされた
それはある満月の晩だった。
ずっと、お部屋にこもりきりだったリーズが、
「とうとう出来た!」
と叫ぶなり眠り込んだのが一週間前。目を覚ましたのが今日。ぼくは心配で、ずっとリーズにつきっきりだった。
頼まれるまま、リーズをお風呂に入れてあげて、ご飯を食べさせてあげた。
「リーズ」
「パージ、じっとしててね」
そして今、ローブ姿のリーズに抱えられ、魔法陣の中に入る。なんだろう?
リーズがぼくを離さないのはいつものことだけど、わざわざ言うなんて変なの。
まあいいか。リーズに身を任せていると、リーズが詠唱しだす。美しい声に魔法陣が反応し、金色の光がのぼりたつ。
「ひゃっ……!?」
ぼくは驚く。光はぼくをとりまいたからだ。
くるくるぼくのからだをくるむと、光が染み込んできた。
「熱いっ、リーズ、なにこれ……!」
「だいじょうぶ、じっとしててね」
リーズがぼくを抱きしめて、キスする。そうは言っても、本当に熱い。頭がぼんやりして、体が溶け出してしまいそう。
「うー……!」
というか、本当に溶けてる……! 金色の光の中に、ぼくの体が溶け出してた。ぼくはパニックになる。
「やあ……! リーズ、リーズ……!」
引っ張られるように、ぼくのからだがのびる。悲鳴をあげているぼくを、リーズは「大丈夫」って繰り返した。
「大丈夫だから」
リーズの顔は、嬉しそうだった。
体の芯が頂点に到達して、ぼくは悲鳴を上げた。ぱあ、とあたりが輝いて、ぼくは光に溶ける。
「あ……」
ぼくは魔法陣に立っていた。体の重心がおかしくて、倒れ込む。リーズがすくうみたいに抱えあげてくれた。
「な、なに……」
「成功。まあ当然だけど」
嬉しそうに言うリーズを、ぼくは見上げる。体がへんだ。なんか、長い……? 見下ろしてぼくは、あっと声をあげた。
「なにこれ……!」
ぼくの体が、くまじゃなくなってる。リーズと同じ、人の形をしてた。
どうりでバランスが取れないはずだ。こんなに体が伸びて大きくなったんだもの。ぼくはぺたぺたと頬を触った。ほんとうに人だ。
「リーズ! どういうこと!」
ぼくの体は!?
怒って腕を振り上げる。リーズは、気にした様子もない。用意してあったらしいローブにぼくをくるみながら言う。
「これがパージの新しい体だよ」
「はっ!?」
「パージは人間になったの。俺と同じ」
うっとりした顔で、ぼくの頬を撫でる。ぼくは二回、三回首をひねった。それから、
「ふざけるなーっ!」
とリーズに飛びかかる。
ぽかぽかリーズを殴った。力の加減がうまくいかなくて、手を引っ込めた。涙がじわりとにじむ。
「ひどいよ、リーズ! ぼくのなにが嫌だったの!?」
「え?」
「勝手に人の姿にするなんて……! ぼく、ぼくのからだ気に入ってたのに!」
ぽろぽろ涙がこぼれた。目を擦る。ぼくの手なのに、指があって変だ。怖い。
「こんなんじゃコミュニティにもいれてもらえないよ……! ぼくはどうしたらいいの?」
リーズはいずれ巣立っていくのに。いきなり人として生きていかなきゃいけないなんて、あんまりぼくの意思を無視してる。
意地悪にしか思えない。しくしく泣いていると、リーズがぼくを抱きしめてきた。
「コミュニティになんか行かせないよ」
「えっ」
ひどい。やっぱりそのためにぼくをこんな……。リーズはものすごく不満そうな顔で、ぼくを見てた。何でそんな顔……怒ってるのはこっちなのに。
「パージは俺の奥さんになるんだから」
「はっ?」
そう言って、ぼくの頬を包んで、キスをしてきた。
月光の元、きれいなリーズの顔が視界に大写しでぼやける。リーズの唇の感触がいつもと違う。ぼくの唇が違うからだ。
「や……!」
押しのけようとすると、ぎゅっと抱きしめられる。何度も唇を重ねられて、しっとり濡れる。いつもされてることなのに、落ち着かなくて、ぼくは最後の方は固まってた。
リーズはぼくを見つめてくる。緑のきれいな目。
「そのために人にしたんだもん。ね、頑張ったでしょ」
「え、あ……」
「なってくれるよね? パージも俺が好きだよね?」
じーっと穴が空くくらい見つめられて、ぼくは目をそらした。
「ぼくは、リーズの安心毛布だよ。リーズはぼくから卒業しなきゃ」
「うん。だから人にしたよ」
「そ、そうじゃなくて。ぼくたち離れなきゃ……」
向き直るが早いか、ぼくはリーズを見上げてた。あれ? リーズの向こうには天井がある。リーズの目は温度がなかった。冷たいくらいに月の光をうけて光ってる。
「なんで離れるの?」
「だ、だから……リーズが一人前に」
「いやだよ。絶対に離れないから」
「だめだよ! ちゃんと安心毛布から離れなきゃ――」