あの日にまだ縋ってる5
残された俺は、三年の校舎を歩いてた。
胸の底に吐き気がするほど冷たい怒りを覚えながら。
「瀧くん、ねえ」
「黙れ」
まとわりついてくる佐保を振り切って、俺は歩いた。理性でさえ、誰かを殴って気を鎮めろって言ってるんだ。よく我慢した。
落ち着かない足が、勝手に救護室に向かった。
あいつは理央を救護室に連れて行ったはずだ。わかっていても、確かめずにはいられなかった。理央の名前が認証されてるか、ちゃんと見ないと。落ち着こうとしてるのに、どんどん早足になる。
あいつ、まさか一緒に入ったんじゃ。
ぐったりした理央の上に、乗りかかる志島の姿が浮かぶ。
ぞっとした。
そんなことをしたら、殺してやる。理央と俺は、恋人なんだ。恋人のいるオメガに手を出したら、殺されても文句は言えない。
俺は駆けていた。
理央……!
許さない。俺以外の男に許すなんて。触れさせることも、それ以上だって。
絶対に許さない。
救護室について、理央の名前だけが認証されているのを見て、俺はその場にくずおれた。
力が入らない。それくらい、安心してた。
――ださい。
なにしてるんだろう。
学校で、できるわけないのに。
顔を覆い、息をついた。手が震えてて、みっともないのに、笑いもでない。
わかってる。
理央が俺以外に許すはずない。
けど。
「好きだ……」
理央が好きだ。どうしようもなく好きだ。
どうあっても、好きだった。思い知らされた。
理央を抱けるかなんて、わからない。理央に、前みたいに優しくできるかなんて。
けど、離れるなんて、どうあっても、ありえないんだ。
『瀧』
幼い理央が、俺に笑いかける。心の底から安心した、可愛い、大好きな顔。
昔の笑顔ばっかり浮かぶのは、変わったからもあるだろう。
理央が今、笑ってないからだ。ずっと無理して、苦しそうに笑ってるからだ。
どうしたらいいか、わからない。理央が、どうしたら笑ってくれるのか。わかってるけど、どうしたらいいか、わからなかった。
うずくまっていると、ふと、影が落ちた。
顔を上げると、志島が俺を見下ろしていた。
「話がある」
断固とした声音だった。
俺は、黙って、ただ静かに志島をにらみ上げた――。
《完》
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