あの日にまだ縋ってる5
玄関の向こう、母さんと理央の話し声が聞こえてた。それをずっと、俺は、耳を澄まして聞いてた。
内容はわからないけど、理央の声はわかる。ずっとその響きを拾い上げてた。
会話が打ち切られたのを察して、俺はリビングに戻った。
「理央ちゃん、喜んでたわよ」
リビングに入るなり、母は言った。俺は「そう」とだけ言って、スマホに目を落としてた。
「自分で渡してあげなさい」
「母さんからのほうが、喜ぶよ」
母さんが、仕方ないって顔で息をつく。
こんなことして、馬鹿みたいだった。せっかく塾がない日なのに、ポトフなんか作って、母さんからだって言って渡してもらってる。
いい時間に、理央からのお礼の連絡が入るのを、じっと聞いてた。電話越しじゃ、気配しかわからない。
理央。
元気なら、なんで来ないの。
「もういい」って、本気で言ってる?
――会いたい。
抱えた膝が軋んだ。行ってどうするんだ。
俺は、今の理央を認められないのに。理央のことが好きでも、前みたいに、優しくなんてできっこないのに。
理央が来ない。
あの日の涙と、もういいって言葉が、俺の胸を刺し続けた。
なのに、どうしても動けなかった。
何で?