あの日にまだ縋ってる5
「瀧くん、お弁当たべない?」
周囲のにやにやした空気に囲まれて、佐保がお弁当を差し出してきた。俺は目を眇める。
なんで俺が、気も許してないやつの飯を食わなきゃならないんだよ。
見世物にされて不愉快で、俺は席を立つ。
「一人で食べたいから」
佐保の顔が凍る。男子たちが、「瀧!」と声を上げ、追いかけてきた。
「そりゃないだろ!」
「男だろ!」
つよくささやき、肩を抱く勢いで組み付いてくる。その目の奥に、嫉妬がぎらついてる。
お前らごときが、俺に張り合うつもりかよ。あまりのうざさに、怖気が走る。俺は手を振り払った。
「うるさい」
俺は教室を後にした。ずっと、イライラして仕方なかった。今までこんなこと、なかったのに。どうしていいかわからない。
『瀧、おつかれ! 飯くおうぜ』
理央の笑顔が蘇る。
いつも、俺の分もあわせて、たくさんパン買ってきてたな。一緒に食べてあげたこともなかった。
「おばさんのお金なんだし、無駄遣いしないでください」
って言ってた。
そんなことが、ずっと引っかかる。
俺に拒絶された理央の、笑顔に隠される前の一瞬の悲しい顔ばかり、ずっと浮かんだ。
屋上に続く階段で、ひとり弁当を食べる。いつものメニューが綺麗に詰められてある。
理央が俺に弁当を作ってきてくれたことがあったな。恥ずかしくて、いたたまれなくて、すぐに、はねのけたけど。
あのお弁当、何が入ってたんだろう。
理央のことだから、俺の好きなものばかりだろう。蓋を開けて見もしなかったから、正解はわからないけど。
理央のトークルームを開く。既読のつかないそれを遡って、理央のメッセージを見てた。
『おはよう! 起きてるか?』
『なあ、今何してる?』
『今日の月、綺麗だぞ! 見てみ』
『寝ちゃった? おやすみ』
返すわけでもないのに、ずっと見てた。
理央のメッセージをなぞって、心のなかで、答えてた。
それから、続きを見たら、俺は何も返してなくて。時々返しても「はい」「いま忙しいので」とか、そればっかりだった。
痛みに近い憂さが、胸をつぶす。
画面を閉じ、スマホを鞄に放り投げる。うなだれて息をついた。
――理央に会いたい。
どうしようもなく、顔が見たかった。言葉を、声を、記憶を更新したかった。