あの日にまだ縋ってる5

 
 三年の校舎。
 俺は、ひとり、立ち尽くしていた。

 理央りお

 辺りの喧騒は、遠いのに障った。多分俺は今、なんにでもムカつくんだろう。それくらい、最悪の気分だった。

たきくん」

 佐保さほが追いかけてきて、声をかけてきた。俺は無視して歩く。今、こいつの相手している余裕はない。何か言い募ってきていたが、シャットアウトする。それが最後の理性だった。
 今は誰でも、殴りかねない。この胸の中の、怒りを晴らせるなら。

 面会謝絶を食らってから。
 俺は理央の元へ行けないまま、理央は退院した。

「理央ちゃん、明日から学校行けるんですって」

 母さんが夕食の席で、水を向けてきた。俺はわかってたけど、曖昧に頷いた。どうしていいか、わからなかったから。
 理央に会いに行く決心がつかない。俺は理央に会いに行くからには、ちゃんと、答えを用意しなくちゃいけない気がした。そしてそれはいっこうに出なかった。
 ずっと立ち往生してる。

 理央のことは、嫌いなわけじゃない。ちゃんと好きだ。
 けど、これから一緒にいられるか、恋人として愛していけるのかというと、わからない。
 なのに、離れるなんて考えられない。
 俺の恋人は、理央しかいない。

 どうして、理央は大人になっちゃったんだろう。どうして、俺は変わっちゃったんだろう。
 そんなことばかり考えて、理央に会いに行けない日が続いていた。

「最近あいつ来ないな」

 昼休みが来るたび、俺を取り巻く奴らが、嬉しそうに話していた。佐保も得意げだった。

「よかったな。これでようやく楽しく過ごせるだろ」
「くやしいけど、俺ら応援してるから」

 取り巻きの男子生徒たちがこそこそ笑いかけてきて、うざかった。こいつらの視線の先には佐保がいる。
 自分たちは佐保狙いのくせに、どうしてこんなことやに下がって言えるんだ。俺が佐保と付き合ったら、自分も付き合えるとでも思ってるのか?
 気持ち悪い。
 俺はそんなことできない。

 周囲が取り巻いてくるのもうざくて仕方なかった。払い除けてものけても、群がってくる。
 今までは、いつも理央が来てたから。
 理央は休みがちだけど、学校に来てたらいつも、俺のところへ来るから。

『瀧!』

 笑って強引に俺を連れ出したっけ。
 ひたすら恥ずかしくて、困ると思ってた。けど、理央がいなくて、どれだけ俺は、くだらなくてうんざりしたものに囲まれてるか、思い知る。
 全部汚かった。そこにいる俺も、当然汚いんだろう。どうしても気持ちが淀む。
 思考をシャットアウトすることで、どうにか心の底まで汚れきらないように、自分を保っていた。


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