あの日にまだ縋ってる4


「えっ……」

 俺は見上げる。瀧が、じっと俺を見下ろしていた。綺麗な瞳は、感情が見えない。けど何か強い力を放っていた。
 俺の胸は、一気にざわめき出す。腕に、瀧の力と熱を感じて、泣き出したいくらい、心が震えた。
 駄目だ。

「離して……!」

 腕を引いて、抵抗する。
 瀧は離さなかった。

「瀧くん!?」

 佐保ちゃんの怒りと動揺の声が聞こえた。けど、俺の方も混乱してた。一生懸命手を振り払おうとするのに、びくともしない。瀧は何も言わない。なのに、ちっとも離してくれなかった。

「や……離してってば!」

 暴れた拍子に、先輩のケークサレを落としそうになって、慌てて抱え直す。
 落とさなくてよかったと安堵してると、瀧が、俺の腕を引いた。

「ぁっ……!」

 気づいた時には、瀧に抱きしめられていた。
 あたりがざわつく。俺は息をのんで――必死に暴れた。瀧の力の強さと熱に、どうにかなりそうだった。今、そんなもの感じたくない。

「やだ……!」

 瀧のフェロモンが俺を襲ってくる、くらりと頭が熱に揺れた。涙がこぼれる。ぎゅっと固く抱きしめられて、息もできない。体から勝手に、力が抜ける。俺は泣き声を漏らした。

 どうして。どうしてこんなことするんだ。
 俺のこと、嫌だったくせに……。
 おかしくなる呼吸さえ、瀧に抑え込まれる。自分の体さえ、自分のものじゃないって言われてるみたいで……ひたすら苦しかった。

 やだ。やだ。ひどいよ、瀧。

「やめろ」

 低い声が、瀧のフェロモンを割くように入ってきた。


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