初恋の人を描き続けてる恋人が記憶喪失になった
昔好きだった人の絵ばかりを描いている攻め。
受けは美術部で、美術室に行くと、一番早くに来てる攻めが、熱心にデッサンしてる。受けはその一途な横顔を、横に倒した椅子に座って自分も描いた。
「あの人のこと、忘れたくないから」って言う攻めに、「それはいいことだね」と答える受け。自分も一瞬一瞬を忘れたくなくて、攻めの事を描いてる。自分たちは写真も何もとらないから、頼りになるのは互いの記憶だけ。
それだけじゃ足りないから、忘れたくなくて、受けも攻めのことを描いている。
絵には、その時の自分の心ものる。だから、攻めがいかにその人のことを忘れたくないか、求めているかがわかる。
切ないけど、受けはその絵が好きだった。
なら、いいのかなと思った。
一方通行に見えるけど、自分の思いが、攻めのなかでとどまるなら、何か意味があるんだろう。そう思っていた。
◇
ある時、攻めが階段から落ちて、記憶喪失になってしまう。
攻めからは、自分の記憶はおろか、好きだった人の記憶までなくしてしまっていた。
攻めはもともと浮き世離れした性格で、他の人から見ると、何ら変化がないように見えた。
けど、受けにはわかった。ものすごく攻めは空虚を抱えてしまったことを。
クロッキー帳を前に、じっと鉛筆を動かせずにいる攻めに、皆が戸惑う。
攻めにとって絵は息をすると同義だったから、ぼんやり首を傾げているなんて想像もできなかった。
攻めは自分の空虚は理解しているみたいで、焦燥しているのがわかった。ぴりぴり緊張していて、近寄りがたい攻めの傍に、受けはそっと控えていた。
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