あの日にまだ縋ってる(瀧視点)


 俺が理央の元へ会いに行かなくなっても、理央はいつでも、俺のところに来てくれた。

『瀧!』

 理央が俺と同じ学園に進学して、正式に付き合うことが決まったとき。
 祝う母さんたちをよそに、俺はずっと冷たい不安と危惧を覚えていた。また、あの日々を繰り返すのかもしれないと。
 だから。
 理央を呼んで、二人きりになって、

「学校では、絶対に付き合っていることを言わないでくれ」

 って言った。
 理央は、目を見開いて。それから、「言わねえよ」と笑った。
 理央の嬉しそうにかすかな期待を滲ませた顔が、さみしい笑顔にかわった。俺はそれを、罪悪感より安堵の気持ちで見てた。
 理央をはねのけるたび、しくしくずっと、胸が痛いから、どこかお相子のような気持ちでいたんだ。

 何度も何度も、理央は俺のところへ駆けてきた。俺が何度すげなくしても、ずっと、それが続くことに、むしろ不安を抱けるくらい。
 だから俺はずっと、答えを出さずに済んだ。ごろごろした不愉快を抱えたまま、理央と過ごして来られた。その不愉快の元凶が、理央だと勘違いするくらい。

 けど、それは今、途切れてしまった。
 俺は理央に会うこともできない。言葉さえ、届いていない。

 どうしたらいいか、わからなかった。
 現状も、これからのことも。

 理央の心は好きだ。
 けれど理央はもう、俺の好きだった理央じゃない。こんなことになっても、ずっと、幼い頃の理央の面影に、縋っている自分がいて、今の理央を求めることを阻んだ。

 なのに、離れたくなくて。
 いまだって、離れていかないでって、理央の手を掴みたくて仕方なかった。
 誓いのキスさえ、怖くて出来ないのに。

『理央ちゃん、俺のつがいになって』
『うん』

 約束。
 そう言って俺たちは小指を絡めた。
 あの日の幸せな気持ちを、他ならない自分たちが塗りつぶしていく。
 どうして、変わってしまったんだろう。理央の体も、俺の心も。時間というものが、ひどく憎かった。
 変わらないものが、あればいいなんて。
 わかってる。けど、踏み出せるほど、俺は強くもなかった。

 思い出だけは眩くて、愛してると何度だって言える。
 けど。
 与えられないくせに、愛してると言うなんて。
 理央と行く道を、進むと決めるなんて。
 不確かな道を行くなんて。
 ――できない。

 明確な言葉なんて、言えない。
 なのに、理央と別れるなんて絶対に考えられない。

 どうしたらいい。
 もし、時がすべて戻るなら――それでもきっと、意味はないだろう。時間が全て前に刻むものである以上。

 理央に贈るはずだった花束と、お見舞いを持って。
 俺はずっと、帰路に立ち尽くしていた。

 《完》

 
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