あの日にまだ縋ってる(瀧視点)


 救急車のサイレンが聞こえて、外に出て。運ばれてく理央の体が見えた。

「理央!」

 思わず俺は叫んでいた。救急車は去っていった。
 話したいとかも消えて、ただただ血の気が引いていた。ずっと家で祈ってて、おばさんからの連絡を聞いて、ようやく息をついた。
 けど、理央はしばらく入院らしい。母も責任を感じているらしく、苦い顔をしていた。

 理央が入院したことを、周囲は残念そうにして、佐保は怒っていた。本当に具合が悪いのかと言う顔をしていた。

「普段はこんなこと思わないんだけど、あの人は信用できないから」

 俺はひどくうんざりして、

「理央はそんな子じゃない」

 と佐保を拒絶した。佐保は表情を強張らせていた。俺も悪いってわかってる。けど、そんなこと思ってても言うやつはまともじゃない。
 関わらなきゃよかった。そう思った。

 そして、俺は意を決して見舞いにきた。理央の体調が気になって。理央と話がしたくて。
 けど、結果は見事に空振りだ。会うことさえ、出来なかった。
 帰り道、やけに陽の光が重くて、一人を実感する。

 もう一週間近く、理央の顔を見られていない。一番新しい記憶が、悲しい顔で俺を見上げて笑う理央だ。
 そんなのは嫌だった。

『瀧!』

 理央の笑顔を思い浮かべる。俺を見上げて、いつも嬉しそうに、安心しきった顔で笑ってた。それがすごく可愛くて、大好きだった。だから俺は――。
 そこで、ふと、俺は思い至る。
 理央が最後に、そんなふうに笑ったのは、いつだっけ。
 もうずっと、見ていない。
 どこか、不安そうに目の奥を張り詰めさせて、無理に明るく笑ってた。

 俺に打たれた頬をおさえ、ぽかんと俺を見あげてた理央が脳裏によぎる。その翌朝の無理してる笑顔も。
 理央に笑いかけられるのが、怖かった。
 変わってしまった姿で、俺の宝物を上書きされるのが。俺の大好きな理央を、壊されたくなかった。
 でもそれは、杞憂に終わった。おそらくあの日を境に、はっきりと、理央は俺に線を引いた。

 そのことに、確かに俺のなかでずっとざわつくものがあった。けど、罪悪感と安堵に流されて、ずっとかみ合わない不愉快を抱えたまま、今まで来てしまったんだ。

「もういいよ」

 またあの言葉が、蘇る。
 胸がぞっとするほど、冷たくすくみ上がった。
 スマホが振動して、思わず確認する。
 佐保からだった。

『大丈夫?』
『この間のことで、話がしたいんだけど……』

 自分都合で進められる会話を閉じようとして、理央のトークルームを開く。

『理央』
『話したい』
『顔を見たい』
『既読だけでいいから』
『心配なんだ』

 ずらずらと、自分の言葉が並んでる。
 既視感に、力なく笑った。独白で浮かべる笑みなんて、怠かった。
 誘われるように、俺は上にスクロールして、理央のメッセージを見た。
 理央は、なんてことないおしゃべりを、大した返事をするわけでもない俺相手に、ずっとしてた。
 最近に至っては、既読をつけてればいい方な返信率だった。

『ちゃんと返事返せよな』

 冗談めかして言った理央に、俺は何て返したっけ。

「ちゃんと中身のあることなら返します」

 って言ったんだ。理央は、「つまんないやつ」って笑ってそっぽを向いた。
 俺が今してるのは、中身のある連絡のはずで。
 なのに何故だろう。
 自分の言葉が、ひどく重く、冷たく胸にのしかかった。

 理央と話したくて仕方なかった。
 けど、何を話せばいい? 俺に何が言えるって言うんだろう。理央の心を、動かすような中身のある言葉が、俺にあるんだろうか。



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