あの日にまだ縋ってる(瀧視点)
見舞いと看病のためのものをドラッグストアで調達して、理央の家へ向かった。
話さなきゃいけない。理央と、昨日の話の続きをしなくてはならない。
インターホンを押す。理央は出なかった。重ねて押しても反応がないので、メッセージを送る。
すぐに既読がついたことに、気分が浮き立つ。
けれど、理央が出てくることはなかった。メッセージに返信することもなかった。
何度も送るけど、次第に既読さえつかなくなった。
俺は日が傾くまで、玄関先に立ち続けていた。
次の日も、その次の日も。
俺は理央に会いに行った。送っても送っても、反応がないメッセージは閉じた。日中からずっと家の前に立ってるなんて、変だろうけど。俺は学生だし、理央の恋人だから、問題ないはずだって決めて、ずっと待ってた。
時間を忘れて待っていたら、理央の様子を見に来た母さんに行き合ってバレた。
「あら、まったく。制服なんて着ないで堂々と休んで行けばいいのよ」
呆れた風に言って、インターホンを押した。
ついていこうと思ったのがバレたのか、手で制された。
「理央ちゃんが入れないのに、勝手に入れられないわ」
と至極真っ当なことを言った。普段会いに行けって言うくせに、と苛々した。
しかし、理央が出てくることはなかった。これには、母さんも困惑した。
「変ね」
母さんは、理央に電話をした。すると繋がったらしい。二、三言話して切れた。耳を澄ましても、理央の声の、気を張った音しか聞こえなかった。
「眠いから、今日は平気だって」
「救急車呼んだほうがいいんじゃないの」
「そうね……」
呑気な物言いに、カッとなった。
「何があるかわからないだろ! 理央は溜め込むんだからぼさっとするなよ!」
俺の剣幕に、母さんは驚いた様子で、固まった。俺も慌てて、咄嗟に溢れてたフェロモンを抑えた。母さんは強いオメガだけど、マナーが悪かった。
「ごめん」
「いいのよ」
母さんは、口元に手をやって、思案げにした。それから、顔を上げて俺を見た。
「瀧。あなたと理央ちゃん、うまくいってるの?」
「……え」
「今のあなたに、こんなこというのも悪いんだけど……理央ちゃんの調子の悪さはオメガとして思うところがあるのよ」
俺は言葉を継げなかった。
うまくいってるかなんて。なにもうまくいってない。
学校での俺たちや、二人でいる時の俺たち。どれをとっても、いいところなんてない。
理央はいつも、無理して笑ってた。
母さんが、黙り込んだ俺の腕をそっと叩いた。
「今みたいに素直に気持ちを言ってあげなさい」
俺は口をつぐんだ。
「とにかく、私は
そう言って俺を促した。
俺は、動揺して虚みたいになった気持ちの中、母さんの言葉を反芻する。
素直になれだなんて、俺はそんなもの、もう持ち合わせていないのに。
ならどうして、理央のことが頭から離れないんだろう。理央に、前みたいに優しくしてやれない。恋人みたいに、振る舞ったりできないのに。
どうして、話さなきゃって、詰め寄ってるんだろう。
おばさんが帰ってきて、理央が救急車で運ばれたのは翌日だった。