あの日にまだ縋ってる(瀧視点)
理央は学校を休むことになった。
母さんが、理央の家から帰ってきて俺に教えた。
「理央ちゃん、けっこう悪いみたいでね。見に行ってあげなくちゃ」
おばさんが出張らしいことも知った。
「かわいそうにね。頑張って入った高校なのに、休みばかりで。オメガは辛いわね」
理央は第二次性徴以降、学校を休みがちだ。それでも、必死に勉強して、俺と同じ学園に高校から進学した。
そんなことが頭によぎる。けど、俺はいつもの通り、気にしてない顔でうなずいた。
母さんは、俺の顔を見る。そして俺の背中を叩いた。
「心配なら、お見舞い行きなさい」
「別に。アルファが行くのもよくないし」
「まったくもう。声くらいは聞かせてあげなさい」
母さんは、俺が理央にすげないのは、単純に照れてるだけだって思ってる。けど、そういうものではないから、こういう時気まずかった。
スマホを操作して、昼間の検索履歴から、喉に通りそうなものを探す。お茶は飲めていたから、水が駄目な周期ではないのだろうか。
部屋の中が暗くなっても、ずっとそうしてた。スマホが明るいから、気にならなかったし、落ち着かなかった。
理央が心配だからじゃない。さっきの理央の様子が頭から離れないからだ。
何か気をそらしたくて、ずっと調べていた。
翌日、周囲は、佐保から話を聞いて、理央を糾弾するつもりだったみたいで、理央が来ないことに喜びながらも落胆していた。
「よかったね、瀧くん。ここが正念場だよ。お見舞いいっちゃだめだよ」
拳を握って気合を入れてくる佐保に、乾いた笑みも浮かばない。
俺のために怒っているのはわかる、俺がこんなこと思うのはお門違いだってわかってる。
けれども、体調不良だって休んでる人間相手に、こんなことを言うなんてどうかしてる。
俺の世話を焼いてあげようとする態度にも閉口する。
俺は聞いていられなくて、教室を出た。
ずっと気分が悪くて、落ち着かなかった。
理央、「もういい」って、どういうこと?
俺が理央を庇ったことじゃないのはわかってる。「戻っていいよ」って言われた。
自分に優しくない俺に、戻っていいってことか? 何で――。
そこまで考えて、お腹の底が冷たくなった。
廊下を行く足が速まる。しまいには駆け足となって、俺は学校を飛び出していた。