あの日にまだ縋ってる(瀧視点)

 
 俺は母さんからの見舞いの品を見下ろした。
 シンプルだけど質のいいグレープフルーツゼリー。理央は体調が悪くなると、本当に食が細くなるから。そのたび、食べられそうなものを、じっと見て探してた。俺が理央の様子を伝えると、母さんが察して買ってくる。

「たまには自分で渡しなさい」

 見舞いに行くたびに、母さんに笑って言われた。
 それができたら、苦労しなかった。そういうことをしたいわけでもないと思った。理央に、甘い態度をとったら、理央がまた、甘いやりとりを期待してしまう。

 年を重ねるにつれ、ましになると思っていた俺の理央への態度は、変わらずだった。
 中学で一度離れて落ち着いたと思ったのに、いっそう引っ込みがつかなくなっている、と言ってもよかった。
 今さら、どう返していいかわからなかったし、周囲だって、もう、俺と理央の関係をそういうふうに見てはいなかった。

 俺のそんな態度が、理央を傷つけていることはわかってた。
 周囲の言葉を否定しないでおいて、理央を侮られると憤る、そんな身勝手な自分がいた。
 何度、周囲を窘めないと、自分たちの本当の関係を言わないといけないと、思ったかしれない。
 けど、またあの居た堪れない空気になる。いや、それはよかった。困ったのは、俺が理央にどう接していいか、わからなかったことだ。
 自分たちは恋人だと伝えたところで、俺がそのように振る舞えるかはわからない。けど、友達とは言えなかった。理央が傷つくことははっきりわかったし、理央は俺にとって、友達じゃない。
 だから、理央が来てくれるたび、「まだいいか」と甘えていてしまった。

 そうしたら、理央が。
 壊れてしまったのかと思うくらい、無茶苦茶に泣いた。
 前みたいに優しくしても、危惧していたような期待はされなかった。ただ、不思議そうな顔をして、俺を見て。それから、ひどく悲しげな顔をして、涙を隠すように俯いていた。

「ありがと。もう戻っていいよ」

 そう言って俺を拒絶して、呆然と去っていった。
 もう戻っていい。
 その言葉は、俺を突き刺した。理央自身、その威力に気づいてはいないだろう。
 その言葉は額面通り、佐保さほのところへ戻っていいという意味じゃない。
 いつもの俺に戻っていいってことだ。
 理央にとって、もう今の俺こそが俺なんだ。
 この事実が、こんなに堪えるとは思わなかった。
 動揺しきっていて、佐保が嬉しそうに何か話していたけど、頭に入らなかった。

「本当に迷惑だよね。よく思い切ったね」

 袖をひかれ見下ろすと、佐保のきらきらした瞳が、俺を見つめてた。少女めいた容姿をした佐保は、こういったことをしても違和感がなく、むしろ似合っていた。
 俺と佐保が傍にいても、誰も疑問にも思わなかったし、むしろはやし立てられる始末だった。

 けど、俺にとって、佐保はそういう存在じゃない。
 よくつるむクラスメイトに過ぎなかった。
 どんなに夢から覚めたって、俺の恋人の位置にいるのは、理央だった。何故かわからないけど、それしかありえなかった。ひどい違和感と拒絶を覚えるのだ。自分さえ、不思議になるほどに。

 俺はだから、ただひたすら理央の言葉にショックを受けていて、追いかけることを忘れていたんだ。



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