あの日にまだ縋ってる(瀧視点)


 きっかけは、何だったかわからない。理央の身長が大きくなって、声変りをしたことだったかもしれない。
 それまでは理央は、オメガらしくどこか少女めいた容姿をしていた。けど、第二次性徴を経て、骨格も少年のそれに変化していった。
 それは女子などからすると、歓迎されるような変化だったと思う。

「理央くん、かっこよくなったよね」

 今までただの泣き虫なオメガ扱いだった理央が、女子の間でそう囁かれるようになった。
 それは、俺にとって、戸惑いの感情を呼び起こした。

たき

 理央は変わらなかった。けれども、理央に対する周囲の目線は変わった。俺は、なんだか理央に、今まで通りに接することができなくなった。
 理央のことは、ずっと可愛いオメガと思ってきた。それはどこか、女子に対するようなものだったのかもしれない。
 けど、今の理央は違う。俺と同じ男で、周りの皆もそう思っていた。
 そう思うと、かつてのように接するのが、無性に恥ずかしくなった。
 俺は、理央の元へ行くことが、辛くなっていた。
 理央はあんまりにも、変わらなかったからだ。
 俺が来たら嬉しそうに笑って、手を繋いでほしがったし、甘えてきた。考えてみればそうだ。だって今までは率先して俺がそうしてきた。理央の手はつなぐものだったし、自分にだけは、甘えるように求めた。

 わかっているけど、もう違うんだから。理央というオメガの幻想が、崩れた気がして、俺は理央をかわすようになった。
 理央は、気づかずに、クラスにやってきた。

「瀧」

 来るたびに、クラスのみんなが、こちらを見るのがわかって、居心地がわるかった。咄嗟にすげない態度をとってしまう。理央がぽかんとした顔をすると、俺も胸が痛かった。理央が悪いわけじゃない。
 わかっているのに、恥ずかしかった。

「理央、あまりくっつかないで」

 そう言うと、理央は首をかしげた。「なんで」と尋ねてきたけど、俺にだって、明確な答えがあるわけじゃなかった。ただ嫌だ。そういうことはできなかった。


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