あの日にまだ縋ってる


「瀧くん」

 佐保ちゃんが、瀧を呼ぶ。場を気遣いながらも、瀧を呼び戻そうとする声だった。
 そっちじゃないよって。間違ってるよって。
 俺はうなだれる。心の中がくしゃくしゃに砕けていった。

「もういいから」

 瀧の胸を手で押した。綺麗なシャツが血で汚れるとかも、今は気にできなかった。瀧の血の音が、手のひらに響く。

「ありがと。もう戻っていいよ」

 瀧が息を呑む。
 体が固まって、俺を抱く腕の力が弱まった。その隙に、そっと抜け出した。
 そのまま、外に出ようとして。隣のベッドに、鞄が二つ置いてあるのが見えた。
 瀧と、俺のだ。
 持ってきてくれたんだ。
 息ができないくらい悲しくなって、俺は唇を噛み締めた。鞄を手に取ると、保健室から出た。
 人だかりがまばらに出来てて、俺のことじろじろ見てた。
 顔を拭いながら、俺はその場を去った。
 まだ足がふらつく、頭が回る。けど、これ以上ここにいたくなかった。

 もう、おしまいだから。
 本当は、あの時からわかりきってたことだった。なのに、今までずっと知らないふりで、縋ってた。
 ごめん、瀧。
 もういいよ。
 そばにいてくれて、ありがと。
 ――さよなら。

 俺は泣きながら、必死に歩き続けた。 


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