あの日にまだ縋ってる


「理央ちゃん。俺の番になって」
「うん! 約束」

 俺は差し出された小指を絡めた。幸せに、俺は笑った。瀧も、すごく嬉しそうに笑ってた。

 目が覚めると、灰色の天井が見えた。
 四隅がどんよりと暗くて湿っぽい。雨でも降るのかな。
 体が持ち上がらなくて、手を上げるのでさえやっとだった。
 骨張った小指を見つめる。こんなとこさえ、可愛くねえなあ。
 知らない間に涙が出てた。耳の中に雫が入ってきて気づいた。
 頭が痛い。これはもう早退したいけど、ヒートはまだ先のはずだから、免除申請通らないかも。
 目を閉じて、手をまぶたの上に置いた。

「気がつきましたか」

 声が降ってきて息を呑んだ。
 とはいえ、だるくて体が動かないから、目線だけどうにか動かす。
 瀧が、隣のベッドに座っていた。

「授業……」
「もう終わりました」
「……そっか」

 俺は、力なく笑った。
 そうだよな。瀧が俺のとこに授業抜け出してまで来てくれるはずない。
 でも、来てくれただけで嬉しいじゃねえか。心配してくれるなら、まだもう少しめがあるってことだよな。なのに、悲しかった。

「単位やべ。めっちゃ寝ちまったわ」

 触れたくなくて、くだらないこと言って誤魔化した。何とか体を起こして、時間を確認するふりをして、窓の外を見る。沈黙がつらい。けど、今話しかけてほしくなかった。俺はまた、布団にもぐりこむ。

「俺、どうせだしもう少し寝てから行くわ。帰ってていいぞ」

 瀧に背を向けて、寝たふりを決め込んだ。
 俺はゆっくり息をする。泣かないように、そう思われないように、規則的に。
 息を震わせないで泣くのも上手くなったな。
 絶対もう触れたくないのに、瀧に意識がどうしても向いて、ほんの少し身動ぐだけでもわかった。

「先輩」

 瀧が俺を呼んだ。呼んでくれただけで嬉しい。
 けど、こんな時でも、名前じゃないんだって思う。
 何だろう、さっきから揚げ足ばかり取っちまってるな。
 何にせよ、俺は寝てるんだ。
 反応なんかしない。できない。
 瀧がベッドから立ち上がった。出てくのかな、と思ったら、動かない。
 どうしたんだろう。
 不安と――期待がよぎる。
 もしかして、俺のところに来てくれるのかって。
 息を詰めた時だった。

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