あの日にまだ縋ってる


「瀧くん!」

 やってきた佐保ちゃんたちに声かけられて、完全に分断されちまった。

「お疲れ様」
「いつも大変だね」

 皆が俺を睨んでるのがわかる。瀧が「別に」と言うのに「面倒見よすぎ」「あの人友達いないから、年下の瀧くんに張り付くんでしょ」とか、俺は言われ放題だ。
 瀧が否定してくれないのも堪える。いつものことなのに、なんかすげえつらい。
 早足で歩いて、その場を去った。

 ハイネックの中に隠された首輪に触れる。

 俺が男っぽくなったせいなのかな。
 昔は、佐保ちゃんほどとは言わないけど、もうちょっと女みたいな容姿してたから。
 考えたくないけど、瀧は目が覚めちまったのかも。

 佐保ちゃんと並ぶ瀧を見てると、ずっとじわっとあった不安が、顕在化してしまった。

理央りお、はえーじゃん」
「おう」

 クラスに戻ると、ダチのほしたちが迎えてくれた。皆、空の弁当を机に広げて、だべってる。俺は頷くと席に座った。

「またなんかあったか?」
「うん。ごめん、ちょっと寝てくるわ」

 机にうつ伏せたら気が緩んだのか、マジで頭が回ってきた。口もとを抑えて、救護室に向かう。
 ふらふら歩いてると、皆楽しげで、何だかどこ行っても自分が場違いな気がしてきた。
 楽しげな皆が、佐保ちゃんと瀧に見える。声が響いて、本当に頭が回ってへたりこんだ。
 やばい。動けない。
 俺がなまじチンピラみたいな見た目のせいか、誰も寄ってこない。チャイムが鳴って、どんどん人がはけてく。
 なに、大丈夫だ。死にはしねえよ。
 ちょっと休めば動ける。今逆に寄られた方が大変だ。
 自分を励まして、必死に息をつく。
 辛い。苦しい。
 大丈夫だ。これくらい……。
 こんななのに、何でオメガなんだろ。オメガらしくてきれいでもないのに、何で副作用だけはきついんだ。
 せめて佐保ちゃんみたいなオメガだったら。
 そしたら、瀧だって。

「君、大丈夫か?」

 やわらかい声が降ってきて、顔を上げると上級生の男が心配そうに俺を見下ろしてた。しゃがみ込んで、目線を合わせてくる。
 ガタイがいいのに、柔和な感じの人だな。
 俺の様子がよほど変だったのか、顔を見るといっそう心配な顔になって、「人を呼んでくる」と言ってくれた。通りがかった生徒に声をかけて先生を呼ぶように頼み、自分はずっとついててくれた。
 久しぶりに、初見の人に優しくされた気がして胸に染みた。
 数の少ない救護室は、また運悪く満室だった。
 オメガが救護室で寝るのは義務だけど、学校だとこういう事がある。帰されないだけマシだった。
 俺がベッドに寝たのを確認して、「お大事に」と去っていった。俺は「ありがとうございます」と礼を言って、目をとじた。


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