あの日にまだ縋ってる
「
授業が終わって即ダッシュして、俺は一学年下の特進クラスに飛び込んだ。瀧はちょうど教科書をしまったところで、「また来たんですか」って可愛くない反応をした。
「授業お疲れ! 飯くおうぜ!」
俺はパンのたくさん入った袋を掲げてみせる。
「先輩、毎度毎度、暇なんですか?」
「がたがた言うんじゃねえ、先輩命令だ。いくぞ!」
瀧を急かして俺は歩き出した。ご機嫌な俺に反して、瀧はずーっとやれやれって顔だ。
肩を組もうとすると、「場所考えてください」って拒否られた。
「気の小せえやつ。どう見てもパシられてる後輩にしか見えねえよ」
俺は笑って手を離した。瀧はアルファで、超人じみた美形なので、周囲の視線の集中もやばい。そして、俺はその美形に絡むチンピラって感じか。
瀧の友達や周囲からも、非難の視線が凄まじいぜ。ほぼ毎日、瀧の友人シンパ色々、「離れろ害悪不良」って、話しつけにくるもんな。
でも、どうこう言われる筋合いはねえよ。
俺たちは幼馴染で、小さい頃からの恋人なんだから。
俺が男っぽくなった中学くらいから、瀧は今みたいな態度になった。
何ていうかくっつくと離れられるし、頑なに敬語で話すし、よそよそしい。すごい甘かったのに、塩対応になった。
本格的に付き合うって決めた時も「周りに絶対言うな」って言われた。もちろん言うつもりはなかったけどさ、とにかく俺と付き合ってるの、バレたくないらしい。
キスだって、昔はいっぱいしてくれたのに、俺がこうなってからは全然ない。
本当に出会った頃からの恋人だから、倦怠期ってやつなのかな、って思うけど。
……へこみそうになった気持ちを、追い払う。
へこんだって男に生まれちまったものは仕方ねえし、女になれるわけでもねえ。
なら、俺らしくするしかねえし、今を楽しまないとな。
屋上前の階段のてっぺんに陣取ると、俺はパンを食い始めた。瀧はおばちゃんお手製の綺麗な弁当を食べてる。俺も手料理とか出来たほうがいいのかな、とは思うけど、うちは母さんが潔癖で、キッチンを勝手に使うとガチで怖い。そして母さんは忙しくて家にいない時の方が多かった。
そして何より、そんな針の筵で作った飯を、瀧は「おばさんを困らせてまで作らなくていいです」ってやや迷惑そうにする。
そりゃ、たいして美味い飯でもないだろうし、母さんを理由にされると俺も弱いけど。
駄目だ。またへこんでるぞ。
「お? 瀧、今日お菓子あんの?」
「もらいものですよ」
可愛くラッピングされたクッキーをつまんでる。なんとなく嫌なカンが働いた。
「んだよ、
肩を叩くと「気持ち悪いこと言わないでください」と言われて、肩を避けるようにすくめられた。
俺は、笑顔のやり場がなく、「可愛くねえの」ととりあえず向こうを向いた。
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