あの日にまだ縋ってる31
「わあ」
「すごく華やかだな」
俺と先輩は色とりどりのお菓子を見下ろしてた。早速いただこうって、先輩が言ってくれたんだ。病院のベッドで、ふたりで手を合わせた。
「樟くんは、焼き菓子だと何が好きだ?」
「えっと、マドレーヌが好きです」
「ああ。甘いのに、さわやかで美味しいよな」
「はいっ。先輩は何が好きですか」
「俺は、そうだな。なんだかんだフルーツケーキかな」
「大人ですね」
先輩は節制してるから、一つをゆっくりと食べてた。一緒に食べてくれる優しさが、ありがたかった。
「先輩」
お菓子を飲み込んで、俺はちょっとうつむいた。
「うん」
先輩は頷いて、俺の言葉を待った。
「俺、」
先生に話したことを言葉にしようとして、少し止まってしまう。すう、と息を吸って、吐き出した。忙しい先輩に、言っていいのかな。でも、言わないのも違う気がする。ぐるぐる、思考が回り出す。小さく声が漏れた。どうしよう。
「樟くん」
先輩の声に、俺は顔を上げる。先輩の穏やかで、強い目が俺を見てた。
「大丈夫だ。言ってごらん」
「あ……」
す、っと体から力が抜ける。先輩はおおらかに、俺の言葉を待ってくれてる。
――大丈夫。俺の体から、力が抜けた。
「実は――」
言葉にしようとしたとき。
ベッドの上のスマホが、ふるえた。
《完》
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