あの日にまだ縋ってる28


 乱雑な音が、辺りに響いていた。ひとしきり、満足すると、男は、はさみを地面に放った。からから、乾いた高い音が立つ。
 俺の髪が、コンクリの地面にばらばらに散らばってた。がたがた身体が震えるのを、皮肉にも周囲の奴らの力で倒れずにいた。

「お、おい……」
「約束だからな。二度と外歩けねえようにしてやるよ」

 周囲の男たちが、困惑の声を上げてる。けど、男は止まらなかった。おさえろ、もう一回言った。顔を掴まれる。

「ウジ虫。お前なんて生きてる価値ねえんだよ」

 服に手をかけられた。
 がちがち、食いしばった歯がなる。くそ、くそ……! 涙がこぼれる。
 瀧……!
 俺は目を瞑った――。

 大きな音が鳴った。

 潰れたみたいな、悲鳴が上がる。押さえられてた手が、緩んだ。どさりと音が響く。
 顔を上げる。
 目の前の男の目が、ぐるりと上を向いた。仰向けに、後ろに倒れ込む。
 それで、向こうに立っている、大きな影が目に入った。外の光を背負っている。


「先輩……」

 先輩が、荒い息をついて、そこに立っていた。


 《完》

5/5ページ
スキ