あの日にまだ縋ってる28


「うわああぁ……!」

 気づいたら、俺は、男を突き飛ばしてた。
 男がほんの少しよろめいた隙をついて、囲みを飛び出す。頭の中が、体から飛び出したみたいだった。
 はやく、はやく! それしか考えられなくて、俺は外に向かって走る。

「だれか……! たすけ」

 最後まで、音にならなかった。
 後ろから口を押さえられ、叩きつけられる。

「ナメた真似しやがって……!」

 背中や肩を何度も蹴られて、俺は蹲った。襟首を掴まれて、仰向けにされる。
 怒った目で見下ろしている。俺は睨みかえした。

「――あんたたちなんて、大嫌いだ!」

 叫んでた。

「俺のこと、何も知らないくせに」

 高い息が漏れる。

「俺が誰に嫌われたって、……」

 ひっと息が戻るのを、必死に吐き出して、舌を動かした。

「っ、世界中のひとに迷惑かけたって……! あんたたちの言うことだけは、絶対に聞くもんか!」

 ひどくむせこむ。けど、冷たい目を見返し続けた。これ以上、こいつらを、俺の中に踏み入らせてたまるもんか。

「この……ゲス野郎!」

 視界が真っ白になった。
 お腹を蹴られたんだって、後でわかった。げほりと、せきこむ。

「おさえとけ」

 真ん中の男が言った。地を這うみたいな、低い声で。周りの男たちに、後ろから腕を取られる。

「よーくわかったわ。お前の気持ちは」

 髪を掴まれた。容赦なく引っ張られる。不愉快に揺れた目に、俺が映る。男の手に、ハサミが握られた。

「このクソオメガ」

 暗がりに刃が、鈍く光った。髪にかけられる。

 や、――咄嗟に出そうになった悲鳴を、俺は食いしばった。


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